「冬の犬」 アリステア マクラウド

彼は右手をおろして、毛を逆立てた犬の首筋に指先を触れた。お互いに勇気を与えあうためのちょっとした動作だ。それから、彼と犬は同時に足を踏み出した。血の波立つ音が響く耳のなかで、もう一度声が聞こえた。「こいつらは最後まであんたといっしょだ」
十八世紀から十九世紀にかけて、スコットランドのハイランドで牧羊地を広げるため、小作人や住民が強制的に立ち退かされました。この「クリアランス」でカナダに移民として渡った人々の中にアリステア マクラウドの先祖もいました。とはいえ世代を重ねるうちに、ゲール語は忘れられ、ケルト文化は滅びようとしています。
「俺たちは二人とも強過ぎる敵を相手にしている」確かに時代の流れには逆らえないのかもしれません。根底にあるのは経済ですから。今の日本の状況も似ている気がします。
上にひいた文章で老人が思い出しているのは、ルーツを訪ねて行って親しくなったスコッランドの羊飼いの「土地も羊も他人の物だが、犬だけは自分の物で最後までいっしょだ」という言葉です。もちろん犬はボーダーコリーです。ボーダーコリーの飼い主さん、ぜひお読み下さい。