ちょっと前の週末、皇居まで走ってその足で国立近代美術館のジャクソン・ポロック
展を観てきました。

この特別展では二十歳そこそこから悲劇的な交通事故で亡くなる晩年までを時系列で
追っています。自分のスタイルを模索していた頃から、隆盛期を過ぎて筆がまったく
進まなくなってしまう晩年期までを俯瞰できるので、彼のアーティストとしての足跡
をたどることができます。

ネイティブアメリカンのアートとシャーマニズムに傾倒した若かりし頃。
土から湧いてきたみたいな、生命力あふれる作品群からは、画風はまったく異なる
ものの、隆盛期の画面に絵の具を叩きつけたようなポーリング/ドリッピングによる
作風が生まれた理由がわかるような気がしました。

最近ポロックのアートに関するTV番組を見たのですが、それによると彼のポーリング/
ドリッピングの作品は、フラクタル曲線(自然界のあらゆる場面で出現する図形)で
構成されているとか。だから観る側に不思議な安らぎと心地よさをもたらすのだそう
です。     

一アーティストが自然界に出現するパターンを作品に描き出してみせたところに
ポロックの天才ぶりがうかがえますが、そのルーツがずっと以前にあったことを
納得。

彼がポーリング/ドリッピング手法で制作する様子が撮影されたビデオが会場で上映
されていましたが、くわえタバコで無造作に筆とブラシを動かす姿が何とも言えず
クール! ちょっと後ろに下がって作品のできばえをチェックして足りないところに
色を足す、なんてことはまったくせず、頭に響く声に従っているかのように淡々と
した制作に驚嘆。これだけの揺るぎないスタイルを確立できたら!と世のアーティスト
たちがどれほど切望していることか…。

でも彼の悲劇は、ポーリング/ドリッピングに次ぐスタイルを見つけられなかったこと。
隆盛期があまりにも完璧すぎて、次のスタイルを確立するエネルギーがもう残って
いなかったのかもしれません。

晩年期の黒を主体とした絵も、ポーリング/ドリッピングの作品を観ていなければ
それなりにすばらしいのですが、彼の隆盛期を知ってしまっている身にはどうしても
二番煎じに思えてしまう。

彼もそれをわかっていて、筆が進まなかったのだと思います。
苦悩していた最中の交通事故で、頭蓋骨骨折で即死。
あれだけ躍動感と力を生み出した天才画家の、悲劇的な死。
もう少し時間があったら、ブレイクスルーできていたかもしれないと思うと早すぎる
死がつくづく惜しまれます…。

あくび@TOKYO-pollock

画像は、ポロックのハンプトンのスタジオを忠実に再現したものです。
(ここだけ撮影可でした)。