市川 憂人 (いちかわ ゆうと) 

「揺籠 (ゆりかご) のアディポクル」 

(2020年10月発行)

 

 

あの“ジェリーフィッシュ”の市川憂人さんの作品

本作はジェリーフィッシュ・シリーズとは全く

無関係の独立書下ろし

 

🐍

 

『揺り籠』はもちろん居心地の良い

庇護された場所の比喩です

 

主人公にとっての揺り籠とは?

“アディポクル”とは?

 

特殊設定ですが

大病を抱えた中学生の恋物語でもありますが

しっかり本格ミステリーに仕上がっています。

ハッピーエンドではないですが読後感良いです

切なくて二人が出会った頃から何度も

読み返しました。

 

市川作品はジェリーフィッシュ・シリーズ5作と

本作品を読みましたが、これが一番好きかも

 

🐍🐍

 

[ネタバレ前までのあらすじ]

 

13歳のタケルは帰宅途中倒れて都内の

病院に運ばれたが、そこは無菌病棟だった。

タケルは病棟でただ一人の先住患者である

同学年のコノハと引き合わされる。

コノハは左腕が義手で顔色も蠟のように

真っ白だったがタケルは魅入られてしまった。

 

紆余曲折やっと打ち解けた二人だったが

平和な日々は続かなかった。

タケルのゆりかごとなった無菌病棟を

巨大な低気圧が襲ったのだ!

この大嵐で一般病棟屋上に設置してあった

貯水槽の支えが折れて、転がった球体が

無菌病棟の唯一の入り口をふさいでしまう。

ここにクローズドサークルが出来上がった

 

このとき主治医たちは一般病棟にいて

無菌病棟にはタケルとコノハだけが取り残された

 

極度の疲労から熟睡してしまったタケルが

目を覚ますと廊下に血の付いたメスが!

急いでコノハの部屋に駆け込むとそこには

胸を刺されたコノハの死体が横たわっていた。

 

嵐が収まっても一向に救助の様子がない。

メスはどこからきて犯人はどう消えたのか…

外界との連絡が一切取れなくなったタケルは

コノハ殺害の謎解きとかたき討ちのために

遂に無菌病棟からの脱出を決意する

 

(脱出までの手法はめんどくさいので略😝🙏)

 

脱出に成功したタケルは唖然とする。

渡り廊下の先に建っていたのは

廃墟と化した一般病棟であった。

一体自分はどこに連れてこられたんだ

 

各階を調べたタケルが屋上で見たものは…

 

目の前に繰り広げられたのは360度の水平線!

ここは東京都管轄の絶海の孤島であった

 

 

 

 

 

 

 

ネタばらし

 

 

 

 

タケルの感染症は“アディポクル”

死蝋と言われる体がろう状になる病気だった。

感染力が高く死亡率は90%にも及ぶ。

タケルは唯一アディポクルから生還した

個体として研究のため本土からこの孤島に

送りこまれた“サンプル”なのであった。

 

コノハの死は自殺。

メスを義手の空洞に隠し持っていたのだ

コノハは病の苦しみから解放されていつでも

死ねるという安心の担保のため用意していた

メスは自動掃除機を使って廊下に捨てた。

この件も説明がめんどくさいので略 🙏

 

コノハの感染症も“アディポクル”。

コノハの薬はタケルの血液から作られていた。

無菌病棟が孤立し主治医と連絡が

断たれた地点でコノハは死を覚悟したのだった。

 

タケルは感染時海馬に損傷を受けていて

記憶を約48時間しか保持できない。

大切な記憶は日記をつけるなど都度

上書きしなければならないのだ。

更にタケルは感染症で発育が停止していた。

以上のことから、適宜記憶の上書きをしていないと

いつまでもタケルは自分は中学生だと誤認識するのだ

 

コノハの死の真相 “だけ” を毎日考え続けた

タケルが脱出を決意し無菌病棟から出たのは

大嵐&コノハの死から10年後の事だった

 

 

(了)