父島に着いたときも「ここは楽園か！」とおもったが、母島にくると更に楽園度が増し、まるで時がとまったかのような錯覚をおぼえる。
うっそうとした亜熱帯樹林が生いしげり、遠くの空では濃密な雲がスコールを降らせている。
母島の周辺には向島、平島、姉島、妹島など無人島が静かなたたずまいで点在していて、小富士に登れば雄大な母島列島を一望することができる。
これほどの大自然を目の当たりにすることはなかなかできないし、とにかく体験した人のみが知ることができる感覚だろう。
日本兵が残した軍靴の跡。死を前にして生の痕跡を残したかったのだろう。戦前は沖村、北村の2村があって、農業、漁業、捕鯨で栄えた。父島が観光の島ならば、母島は今も農業と漁業の伝統を守っている。
中岬の砲台跡
敗戦後、大砲は先に火薬を詰められて破壊される小笠原返還後、父島ではすでにやめてしまった「返還祭」（6月末の土日）を今も開催しつづけている。南洋踊り（南洋から伝えられた踊りで、歌詞に英語やドイツ語がまじり意味不明なところが面白い）、フラダンス、劇、子供たちの手話ソング、小笠原太鼓など450人の島民みんなで楽しむ最高にハッピーなお祭りだ。
島の特産物は、パッションフルーツ、ハチミツ、ウコン、無農薬レモンなどやはり熱帯の果物が多い。小笠原の無農薬レモンでつくるレモンカード（レモン入りのバター）は都内の高級食材店ディーン＆デルーカにもおろされている。
シュノーケリング、ダイビング、ホエールウォッチング、レンタバイクを借りれば南北はじからはじまで見てまわれるし、小富士や乳房山をハイキングするのもいい。デッキでビールを飲み、木陰で昼寝をすれば、涼しい風が焼けた肌をやさしくなでる。
青い空をみあげたとき、まるでデジャヴのような感覚におそわれた。
のんびりとした時の流れの中でのびのびと育つ子供たちの笑い声と、雄大な大自然の風景が夢のように脳裏に焼きついてはなれない。
母なる島は父島から南に約50キロにある、南北11キロの細長い島だ。
父島から「ははじま丸」で2時間で港に着くと、ぽつんと静かな船客待合所がたっている。
今夜はこの待合所でライブだ。
船が入出港するとき以外は人影のない静かな待合所も、今夜は若者や子供たちまで60人もの島民がつめかけてくれた。
これも主催のジャイアンやビッチたちがパンフを持って一軒一軒まわってくれたおかげだ。
オープニングアクトは、母島に移り住んで13年のビッチだ。
母島でプロパンガスの配達をしていて、去年オレのライブでも歌ってくれた。今夜のライブも機材準備からPAまですべてビッチがやってくれている。
風貌からは想像できないほどの美しい歌声で、去年よりもオリジナル曲が増えてるじゃん。母島の青い海、青い空を想い、遠い日のあわい恋心を描いている。ボヴ･ディランやボガンボスの名曲もくわえ、気持ちのいいステージをつくってくれた。
ビッチにつづくは、アロハシャツにウクレレを手に登場したホマレちゃんだ。
ホマレちゃんも父島に来る前は母島に3年住んで、環境センターの仕事をしていた。
オレはホマレちゃん以上のウクレレを聴いたことがない。技術もさることながら、肩の力のぬけ感と歌声がとってもいいのよ。
オリジナル曲は小笠原のフラダンサーチームに提供され、全国大会や発表会で使われている。
「レイの花」「ランデヴー」「泣かないで」など甘く切ない歌詞とメロディが心地いい。「ランデヴー」にあわせて、母島のフラダンサー・ユキエが踊ってくれた。
ウクレレからギターに持ちかえ、オレが小笠原を去ったあとにできた「あの人はもういない」や「ハピネス」「きっとどこかで会いましょう」などオリジナル曲で会場は大盛り上がりだ。
さすが小笠原のスターだなー。
さあ！オレの出番だ
今日は若者が多いし、思いっきり飛ばすぜー！
１、 Traveling man
２、 ウレシパモシリ
３、 だいじょうぶマイフレンド
４、 ミタクオヤシン
５、 ぼくの居場所
６、 Hello my mom!
７、 ソウルメイト
８、 家族
９、 MOVE! MOVE! MOVE!（アンコール。ジャンベ：モモ）
開け放った窓から潮風が吹き込み、外には星がまたたく。なんとぜいたくなシチュエーションだろう。
観客はみな旅人である。みんなさまざまな土地からこの南国の楽園に惚れこみ、移り住んだものがほとんどだ。この地で恋をし、結婚し、子供を育て、人生を送る。
コンビニもスーパーもエスカレーターもユニクロも無印もブックオフもない。
無駄なものがいっさいないが、生きるのに必要なものだけがある。
海も空も森も家族も子供も人情もある。
大切なものほどシンプルだ。
