New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。


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  沖縄ライブの練習を終え、リュウの車で東京へむかう。なにか大きな運命の渦へ突っこんでいくかのような期待と不安に胸が締めつけられる。
 あれこれ悩んでいてもしょうがない。分析とジャッジを放棄して、目の前に起こる現実を直視することだ。どんなことが起ころうと、自分の目で見なくてはならない。自分の肉体を動かして立ち会わなくてはならない。
 マキちゃんと面識があるアユも急きょ仕事を休んできてくれるという。心強い味方である。夜の10時50分に池袋キンカ堂前から出る夜行バスに乗りこんだ。
 3列のリクライニングシートは快適なはずなのに、さまざまな不安がよぎり一睡もできなかった。
 まだまっ暗い早朝5時すぎに彦根駅で降りる。冷たい雨が道路を濡らし、商店街は寝静まったままだ。彦根市立病院行きのバスの始発は6時20分である。あまり早い時間に訪れるのも悪いと思い、地図を便りに歩いていくことにする。
 明けはじめた空は灰色の雲におおわれ、小雨が降りつづいている。彦根城の近くに彦根市立病院とあったが、琵琶湖湖畔の新しい建物に移転したという。
 琵琶湖は海のように大きく対岸は霧にくもって見えない。畑のなかに要塞のごとくそびえる建物が見えてきた。屋上にはりだしているのはヘリコプター用の着陸ポートだろう。
 時間外通路から病院にはいる。マキちゃんは現在緩和ケアの8階から腎臓治療のため6階にいるそうだ。
 エレベーターを待っていると、作務衣を着た男が声をかけてきた。
「アキラさんですか?」
 おおー、マキちゃんの夫ヒカルさんだ。いく時間も告げてないのに、エレベーターのドアが開くとヒカルさんが現れるとはすごいタイミングである。ヒカルさんはニュージーランドやイギリスなどで15年も過ごした旅人族である。いきなりハグをかわすと、慈愛に満ちたオーラを感じた。
「マキちゃんの容態は?」
「腎臓の処置で毎日波はありますが、今日は話もできます。朝から待っていましたよ」
 6階でエレベーターを降り、ナースステーションをすぎ、ヒカルさんが病室にはいる。
「どうぞ」
 おっ、マキちゃんの声だ。
 恐る恐る個室にはいる。
 花柄のロングTシャツにベルベットのパンツをはいたマキちゃんがベッドのうえで笑った。
「雨の中を歩いてきたんですか」
「うん」オレが答える。
「看護婦さんに、駅からここまで歩くとどのくらいかかるんですかってたずねたんですよ。そしたら、そんな人おらんからわからんって」
「1時間半かかった」
 病室が笑い声でつつまれると、今までの緊張がいっぺんに解けた。
「通学途中の小学生にジロジロと見られるし」
「傘も差さずにびしょ濡れのドレッド男が畑の道をうろうろしているのはたしかに不審者でしょう」
「今もナースステーションをとおるとき、看護婦さんたちが珍しそうに見てたわよ」アユがツっこむ。
「ヒカルさんだってあやしい陶芸家みたいじゃん。この部屋だってやばいよ」
 マキちゃんのベッドの壁にはチベットの3色旗が飾られ、ヒカルさんの簡易ベッドにはインド布が敷かれ、50センチほどの笛がころがっている。
「マキちゃんも元気そうじゃん。もうバイバイかもなんて書くからあわてて飛んできたんだぜ」
「昨日あたりから元気がでてきたの。だって祈りプロジェクトすんごいもん。ずっとオシッコが出なくて背中に管をいれられたでしょ。まだまだでなくて2本目をいれられてたのよ。ほら天使の羽みたいでしょ」
 マキちゃんの背中からは絆創膏で貼りつけられた管から血でピンク色になった尿がバッグにつづいている。テニスボール大に肥大化した子宮ガンが腎臓と尿道を圧迫し、自然な排尿がストップしたのだ。
「それがね、全国からメールが届くと同時に出はじめたのよ。しかも透明なやつじゃなく、健康的で黄色いふつうのオシッコなの。昨日は1リットル。今日もばんばん出てるわよ」
「ってことは尿道を圧迫してるガンが小さくなってるってことかな」
「うんうん、少なくともあたしはそう信じる」
「ちょっとガンの上に手を置かせてもらっていい?」
 ヒカルさんも目でうなずく。オレは毛布の上からあてようと思ったのに、マキちゃんが直接手を置いてほしいとお腹をめくる。
「ちょっとふくらんでるのわかる?」
 指先にかすかなふくらみが感じられた。オレはヒーラーでも気功師でもないし、手かざしやレイキも知らない。
 そうだ、オレには「民族の祭典」という必殺技があった!
(※民族の祭典とは? 
 ハンマッハッハ、ハンマッハッハ、フハーフハー
 ハンマッハッハ、ハンマッハッハ、フハーフハー
 心のなかでアフリカともアマゾンともインディアンともとれる原始的なリズムで踊り狂う。
 ヒカルさんもアユもバレーボール部のごとく手を重ねていっしょに祈る。朝露のついた透明なクモの巣から全国から祈ってくれるみんなの想いが手のひらに伝わってくる。オレは謙虚に語りかけた。
「ガンさん、ガンさん、今までたくさんのことを学ばせてくれてありがとう(敵対や排除するより想いを伝えた方が心を開いてくれるのは、人間もガンもいっしょだと思う)。マキちゃんもヒカルさんも家族もオレたちもガンさんのおかげでたくさん成長させてもらいました。またこれからも学ばせてもらうために、新しいステージへ連れていってください。マキちゃんはみんなにもらった祈りの力を感謝に変えてみんなに返したいと言ってます。ガンさん、ガンさん、マキちゃんが文章を書けるくらいに小さくなって、チャンスを与えてやってください」
 手のひらが熱くなり微細な振動が伝わってきた。
「ああ、気持ちよくてお腹がゴロゴロいってきたわ。オナラしたらごめんなさい」
 マキちゃんが言う。
「どんどんして。オナラ攻撃はリュウに鍛えられてるから」
 頭のなかにこんなイメージが浮かんできた。水の中に入れた薬が泡を立てて溶けていく。マキちゃんのお腹からボコッボコッと大きな泡が浮かんでくる。
 30分ほどやったのだろうか? マキちゃんの背中から尿管がとれ、笑いながら傷口を見せるイメージが浮かんできたので、そろそろやめる。
「ほんま気持ちよかったわ」
 マキちゃんが至福の表情で目を閉じながら言う。
「ここは進んだ病院なんでいろんなヒーラーさんたちがくるんです。あたしもいろいろやってもらったけど、今のがいちばん気持ちよかった」
 うううむ、民族の祭典恐るべし。オレの手のひらの上には、親亀の背中に子亀をのせて、子亀背中に孫亀をのせて~のように500人くらいの亀がのっていたのかも。
 オレたちがいた午後3時くらいまでのあいだにマキちゃんは何度もトイレに行き、昨日と今日で2リットルもの記録を達成した。
 マキちゃんのガンは放射線治療が有効なタイプらしいので、日にちが決まったらいっせいに「亀ハメ波」を送ってください。
 それまでは「オシッコ祈願」でいきますか。
 他者に祈るということは、めぐりめぐって自分に祈ることである。
 無償の愛で妻を手足をさすりつづけるヒカルさん、
 「本気で治ってやる」と笑うマキちゃんから、
 こっちのほうがすごいパワーをもらった。

 「生きるって悪くないぞ」ってね。
0603マキお見舞いphoto by AYU
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