映画『アリスと私』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

アリスと私

 

 

スウェーデン版『につつまれて』

 

スウェーデン初の女性歯科医で社交界の女王と呼ばれたアリス。世間的には単なる頭の足りない目立ちたがり屋として知られる。昨年亡くなったそうだ。そんな彼女がTVのインタビューで「私は本当に愛された事はない」と語った事に衝撃を受けた監督のレベッカが彼女と丹念に付き合い”愛とは何か?”を問う。レベッカは妊娠中で相手の男はひと足早く別の女を孕ませて結婚。実の親ともうまく行かないレベッカは私生児を生む事を悩んでいた。アリスもまた若い頃に子供たちをほったらかした事で子供たちとの関係が冷め切っていた。実の子供たちへの罪滅ぼしをするかのようにアリスはレベッカに対して、まるで母親のように接してくれた。

 

お国柄なのか妙にドメスティックな事にオープンな前提が伺える。この手の極私的ドキュメントって奴は大抵の国ではまず一線を越えカメラが踏み込む事にインパクトがあるのだが、この作品では当たり前のように実録『秋のソナタ』が展開する。虚栄心が強い人間ならではの孤独を背負い笑顔を見せるアリスおばあちゃん。実の娘はその欺瞞を知っている。表面的には献身的だが内心軽蔑している娘の正直な言葉がアリスを刺す。修復の効かなくなった関係が赤裸々に語られ、いかにも女性的な孤独が作品を包み込んでいる。何とも色気のある味付け。

 

「愛とは何か」の問いかけを話し合う間にレベッカは私生児として生まれて来る子供を愛する勇気をこの孤独な老人に貰う。親に愛を貰えなかった子供は親になっても子供に愛を与えられない。だがアリスという代理母のような存在でも母親の代わりにレベッカに愛情を与えられる。ただ残念だったのはレベッカが関係を修復すべき父の事に触れながらも『につつまれて』みたいに勇気ある行動には出られなかったって所。レベッカ自身にとって父なき時代は終わらないようだ。