『トウキョウソナタ』の感想from映画生活 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

2008-11-20の投稿

トウキョウソナタ

 

 

望ましくないグローバル化

 

中国人労働者の流入。大企業の人事部に勤める父は大連移転に伴い解雇。中東に派遣され米軍をサポートする日本人志願兵。長男は米国の身勝手な正義に感化され米軍に志願して前線へ。外資から流入した実力主義の価値観。終身雇用の時代は終りパフォーマンスを示すプレゼン能力がない者には容赦なく扉を閉ざす企業。グローバル化と利己的な価値観の変動で日本コミュニティ社会の信頼関係に入る亀裂。保身の為の事なかれ主義で児童に無関心な教師。親としての責任を放棄して夫や家庭から逃げ出したい衝動を封じている母。ぷつりと糸が切れた凧のように軌道を外れバラバラな方向に暴走する一家。だが家族とは信頼関係の上に築かれる物だろうか。肉親は最も近い他人でしかない。家に帰るのは帰る場所が他にないから。元々バラバラな人格の集団。ひとつでなければならないなんて考え方は傲慢な妄想。

 

ホラー狙いじゃない黒沢清作品は久しぶり。やはりこの監督も立教ヌーベルバーグの一員なんだなと改めて再認識。後輩である青山真治や塩田明彦と同様にジャンルに囚われず行動的。映像が絵である前に存在で出来事がドラマである前にハプニング。物語がどっちへ向かって走るのか想像がつかない。そーゆーブレッソン以後の模索を意識した切り取り方は必ずしも良い効果を上げるとは限らないけれど、この作品に関してはなかなかシニカルな味わいとしてしっかりハマっています。なんだかんだ追い詰められても人は決して絶望できない。プライドを砕かれても何事もなかったかのように明日を生きる滑稽さこそが愛しい。プライド捨てて配給に並んででも腹は満たす。いくら思い悩んでいても腹は減る。私は基本的に『獅子座』みたいなラストのひっくり返し方は好きじゃないが、この作品の斜に構えたような距離感で家族を見つめる上では、とことん絶望的な方向に進むよりはこのオチの方がシニカルで効果的。