タバコを吸い出したのは兄が亡くなってからだ。何処か救いを求めて、差し出された一本のタバコに僕は火を付けた。
まだ当時一箱400円もしない時代だ。
陰を隠す事を美学だと感じ、僕はただ人の話しを右の耳から左の耳に流すように、自分の意思を固辞し生きていた。しかしそれはそれで苦痛を強いる毎日だった。
誰も僕に話しをさせてくれなかった。
その内そんな状況に慣れ、僕は自分を無くした。
最近タバコの量増えてない?
人と接する時間が長いと後でそのツケが回って来るんだ。
僕はスポーツマンだったからタバコはなるべく遠ざけていたんだけどな。人生何が起きるか分からんよ。でもそれは自分の範疇内の出来事なんだぜ。自分が蒔いた種なんだぜ。
でも別に好きで生まれてきた訳でもねーんだな。生きてる事は幸せだけどな。例え地獄の最中にいようと。人の事は分からんかったよ。兄が何故そこまで追い込まれたか。なんて、さ。