(創作小説) 男なのに生理になっちゃいました・・・。 | どうする結月

どうする結月

諦めの悪い日記です。
精神を病んでしまうことがあるので、その時はそっと見守って頂けると幸いです。
間違っても優しくしすぎないでください。すぐにしっぽを振っちゃいますから♪
これからよろしくお願いします!!

佐伯結月(MTF)の趣味日記

その日は突然、やってきた。


朝、起きてすぐ言い知れようのない違和感を俺は感じた。
何か大事なものが無くなってしまった。そんな不思議な喪失感。

しかし、そんな違和感や喪失感と言ったものなどが可愛い物だと言っていいほどに、
嫌な予感も同時に感じた。

(なんなんだ・・・うっ)

痛い。

それは突然の痛みだった。
さっきの嫌な予感はまさにこれのことだったことを物語るように痛みが持続的に、そしてどんどんとその痛みを増していく。

ズキンズキンズキンズキンズキン
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

控えめに言っても激痛が体を襲う。
目からは涙が次から次へと溢れ出していくほどだ。

「ぐぬぅ、あ、う、いた、い」

声にもならない音がその痛みに押されるように口内から溢れてくる。
こんな痛みを味わったのは初めてと言ってもいいくらいだ。

ズキンズキンズキンズキン

痛みはどんどん大きくなっていく。
数秒前まで感じていた痛みがほんの序章だったと言わんばかりに痛みは時間を経つにつれて増していく。

今度は内臓を内側から引きはがされるような。抉られるようなそんな痛みが駆け巡っていく。
もう既に音を出すことさえも痛く感じた俺の口からは荒い呼吸しかなく、目の奥からは大粒の涙がまた一つまた一つとこぼれていく。

(う、うっうっ・・・。なんでなんで。なんで俺がこんな目に)

痛みが強く、精神をすり減らしていく。
声が出ない代わりに涙が止まることなく流れていく。

もう枕はびしょびしょに濡れていて、頬が冷たくなっていく。

ぐにゅ

「うっ!!」

痛みの種類がまた変わった。
内臓を無理やり引きはがされながら、かき混ぜられているようなそんな痛み。

こんな痛みがあるだなんて知らなかった。
”痛い”という感情だけが心と体をどんどんと塗りつぶしていく

(は、はやく、はやく、終わって・・・。か、神様)

痛みが治まってくれるのをただただ祈る俺。
普段は神様なんて信じてなどいないが、今日、この瞬間だけはその存在にすら縋ってしまう。

しかし、現実というものはそんなにも甘くはできてなどいないのだろう。

ズキン・にゅるり

その感覚も突然のことだった。
自分の意思に反するように何かが押し出されていく感覚。

痛みの方が強い感覚だっただけに、出てから気付く。
ヌルっとした、それでいてなんだか温かいゼリー状の何かが股間からお尻、
そして太ももへと順に触れていく。

(気持ち悪い)

そのぬめっとした感触が果てしなく気持ち悪い。

(・・・。漏らしてしまったのか。)

その正体は下痢だと思った。
先ほどから感じているこの痛みだって、腹を下している時の副産物なのだと。

ズキンズキン

痛みはまだまだ続いていた。
それどころか、先ほどよりも明らかに痛みの程度もその感覚も大きく、狭くなっている。

「ひゅー」

気が付けば、死に際のような呼吸音が口の端から時折こぼれるだけ。
痛みもここまで強く早くなってくると、声を出すことさえ苦痛だ。

にゅるり

また出た。
また何かが自分の体の奥から流れ出ていったのを感じる。
それが触れている箇所がさらに気持ち悪くなっていく。

(・・・・。死にたい。)

漠然と。だけど鮮明にそんなことすら考えてしまう。
この未だ体験したことのない激痛からも、この下半身にねっとりと絡みつく気持ちの悪い感触からも、早く解放されたいと願った。

このまま痛みが持続された上、強くなっていくのであれば、そんな未来が近いうちに訪れるだろうことも想像に難くはなかった。

訪れるならば、できるだけ早く、今すぐに訪れてほしい。


ただそんなことを考えてしまうほどにその精神は疲弊していた。


ズキリ。

それから何分かの時間が過ぎただろう。
実際はそんなにも時間の経過はしてはいないのかもしれない。

先ほどまで継続的に感じていた痛みにほんの少しだけ慣れてきたからなのか、
はたまた痛覚自体がマヒしてしまったのかは自分でも分からない。

だけど、確かに…。

(ほんの少しだけ、収まった・・・。のか?)

先ほどまで明確に考えていた死のビジョンが薄らぐほどに、意識は安定し始めている。

べちゃ

(あ~。やっぱり気持ち悪い)

痛みが少しマシになったからと言って、下半身を襲っているこの気持ち悪さはどうにもならない。
逆に意識がそっちにも傾き始めたことにより、その気持ち悪さは加速度的に高まっていく。


(やっぱり俺、漏らしちゃったのかぁ)

トイレを、それも大きい方を漏らしてしまったのだ。
こんなことは物心ついたころから一度たりともなかった俺はそんな初めての経験に羞恥心やら居たたまれなさ、不甲斐なさを感じてしまう。

それになにより・・・。

(俺はこれから自分の出した汚物の処理をしなきゃいけないのか・・・。)

純粋に嫌だった。
漏らしてしまったのはなんと言っても自分なのだから仕方が無いのかもしれない。

このまま汚物まみれの下半身でいるというのもそれはそれで、気持ちが悪い。
そんなことは分かってはいる。

だけど、それでも。

この上に掛けている布団を取っ払い、中身を確認する。
その上で、後始末をしなければいけないわけだ。

考えただけでも心が冷えかえりゾっとしてしまう。
自分の責任だとはいえ、この下半身を伝うこの感触から察するに個体の便というわけではなく、どちらかと言えば水溶性のどろっとしたスライムのような便なような・・・。

「うぇ」

想像しただけでたまらなく吐きそうになる

だけど、片づけなければならない。
漏らすことも片づけを行うことも初めてだった俺にとっては、この先行わなくてはならない行動は苦痛の他ならなかった。

ズキン

痛みがまた強くなった気がした。

(またあの死にたくなる痛みが来るその前に・・・。)

俺はまだ絶賛痛み続けるお腹を優しく擦った。

このまままたあの強い痛みが来る前にひとまず少しでも片付けよう。
そんな想いが沸き起こる。

また汚してしまう可能性だって大いにある。
だけど、それでも片付けをしない理由にはならない。

(それになにより・・・。)

ベッドの上で寝ていることもあって、このまま放置なんてしてしまえば浸潤してしまう事は間違いなかった。
もし、そんなことになろうものなら、ベッドを丸ごと買い替えなければならないかもしれない。

(もう手遅れかもしれないけどな・・・。)

善は急げだ。
そもそもこの機を逃せば、またあの激痛に襲われて動けなくなるかもしれない。
今しかない。

両手の力を使って、起き上がる。
その際、腹部に痛みが走ったが我慢できない程の痛みではなく安心した。

「よし、大丈夫だ。うん。大丈夫。」

自分で自分を励ます。
多分、今の光景を第三者が見てしまったら、嘲笑されるかもしれない。

「よ~し、剥ぎ取るぞ。剥ぐぞ~。」

今度は掛布団を掴む。

正直、自分の中から出てしまったものを確認したくなんてない。
しかし、中身を確認しなければ、なにも始めることが出来ないというのも事実。

(いやだなぁ。でも)

覚悟を決め、鼻に力を込める。
おそらく今は布団のおかげでそんなにも匂ってこないというだけで、それを引っ剥がした途端に信じられない程の異臭というか刺激臭が鼻腔を駆け巡ることは間違いがないだろう。

それを吸い込むための覚悟。


バッ

俺は思い切り布団を掴み、まくり上げる。
布団がめくれ、自身の下半身が露に・・・。



「え・・・・・・・・・。うぇ」

自身の下半身が見えたのとちょうど同じ瞬間、鼻腔を思い切り嫌なにおいが突き抜けてきて、一瞬にして吐き気を催してしまった。

しかし、そんなことよりも何よりも。

(なんだ・・・。この匂い・・・。それに、なんで・・・)

何かがおかしい。

俺はさぁ~と顔が青くなっていくのを直感で感じた。
めくった瞬間にその違和感が大きく顔を出したのだ。

まずはじめに感じた違和感。それは単純に匂いだった。

嫌な匂いであったという事実は確かなことだったのだが、予想していたようなアンモニアの濃い匂いなどではない。老廃物のようなにおいでもトイレで糞便をした時のものではない。

なんというか魚を腐らせてしまった時のようなそんな匂いの中に血液のあの鉄の匂いがしたのだ。
こんな匂いを嗅いだのは初めてだったし、まさかこんな匂いを自分の中で生成してしまったのかと思うと嫌な気分にさえなってしまう。

(それに・・・。これは、え、なんで??)

そしてなんと言っても、この違和感が一番大きいかもしれない。
視界に映るそれは、便などではなかった。

真っ赤などろっとした液体。
それが敷布団の上に広がっていた。

「え、どうして、え・・・。」

あまりにも信じられない事態と口をパクパクとさせてしまう。

漏らしてしまった軟便が見たかったわけではないが、これはさすがに異常だ。
昨日までそこには当然のように何もなかった。
赤い液体も赤に着色された小物の類もない。

突然、それは現れたのだ。

だけどそれが何なのかは薄々分かっていた。
多分、血液だ。

しかし、あくまで”多分”血液なのだと思うという事なのであって、
それが血液であるという確証はまだない。というかそれを血液であるとまだ自分の中で認めたくないという心理が無意識に働いていた。

そもそも、こんなにもドロッとした血液を俺は今まで見たことがない。

「な、何なんだよ・・・これ」

その赤い液体を視界に映すたび、その生暖かい感触が下半身から伝わるたびに、
その生臭い独特な匂いが鼻腔を突き抜ける度に、弱気になっていく。

もう泣きそうだ。

なんで自分がこんな目に遭うのか分からない。
昨日は普通に一日を過ごして、下半身にけがを負った記憶も一切ない。
それなのに、朝いつものように起きたら、こんなことになっているなんて、誰も想定なんてできるわけがない。ただただそう考えだすと悲しいやら不安やらで涙が込み上げてくる。


「どうして!!どうしてだよ!!ふぉうぢてなんだよ・・・」

泣いているせいか声もおかしくなってくる。





ズキン

「うぐっ。ま、また!?!?」

涙を抑えようと目に力を入れたその瞬間、また腹部に強烈な痛みが走る。
痛い。痛い。痛い・・・・・。

ズキンズキンズキンズキン

痛みは追い打ちをかけるかのように押し寄せてくる。
その痛みのせいで涙が滝のように溢れ出して、視界はぐちゃぐちゃだ。
部屋の照明がやけにまぶしく感じて、照明の光度を2段階ほど落とす。

ズキリ

今度は内臓を抉るような痛みに襲われる。


だけど、認めたくはない。
認めてしまったら、全てが変わってしまう。
じぶんを形作る何かが音を立てて崩れ去ってしまいそうで・・・。



怖かった。




あの時の自分を言い表す言葉があるのならば、これしかないのだと今なら思う。

俺は突然“来てしまった”異変にただ恐怖を感じていたのだ。
だって、それは男であるはずの俺が知るはずのない。そして体験することのないものだと。そう決めつけていたから。

保健体育の先生も幾度となく授業中に語っていたことだった、
全然未知の事なんかではない。ただ、それを自分には関係がないものだと知らない“ふり”を決め込んでいただけ。

もう少し、しっかりと先生たちの授業を聞いてさえいれば、あんなにも狼狽することだって絶望に浸ることだって、なかったはずだ。




・・・・・。いや、そんなわけはないか。

だって俺はその日まではそんなことに縁も所縁もない“普通の男性”だったんだから。
こんな不思議な現象が起きるだなんて、誰が想定できるだろうか。

いいや。できるわけがない。





「はぁ、ほんとやれやれね・・・。毎月毎月しんどすぎ」

あの日から何度目か分からない後始末をしようとトイレに入り、ため息をつく。
便座に座り込み、下着と共にナプキンを外すと、そこには“いつも通りの”経血

「昨日、多い日用を付けておいてよかった~。こんなんいつものだったら絶対に漏れてたやつじゃん・・・。はぁ、もうやだなぁ、早く閉経してくれたらいいのに・・・。ってダメダメ!!そんなことになっちゃったら、彼との子供作れなくなっちゃう・・・。」

彼との子供が作れないのは、今の私にとっては何より嫌なことだ。

だから、この血の感覚もあの悶絶するような痛みも我慢するしかないのだ。

「ふふふ、今日は彼とのデートの日だし、タンポンにし~とこ♪♪」




俺、いいえ、私はきっとあの日のことを生涯、多分死ぬその時まで忘れはしないだろう。

だって、私にとってあの日は“男だったはずの”自分が生理になってしまった。
そんな貴重でかけがえのない日だったのだから。



ありがとう。神様。

私を女にしてくれて。生理を与えてくれて・・・。



おしまい。