松竹ナビ株式会社 西日本マーケティング部 関西映画宣伝室よりご招待を受け、
映画『か「」く「」し「」ご「」と「』
マスコミ試写に行ってまいりました。
原作は、住野よる氏による同名小説(新潮文庫刊)。
住野よる氏といえば、鮮烈なタイトルと、社会現象を巻き起こしたデビュー作
『君の膵臓を食べたい』の印象が強いと思うが、
2023年には『恋とそれとあと全部』
で第72回小学館自動出版文学賞を受賞している。
他には、
『また、同じ夢を見ていた』、『よるのばけもの』、『青くて痛くて脆い』、
『麦本三歩の好きなものシリーズ』、『この気持ちもいつか忘れる』、
『腹を割ったら血が出るだけさ』、『告白撃』、『歪曲済アイラービュ』
などの作品もある。
人の気持ちが、記号化されて見える…
そんな特殊能力があったら、あなたなら、どうしますか?
『か「」く「」し「」ご「」と「』は、
一見、ごくごく普通の高校生たちが主人公の青春物語だ。
とはいえ、主人公は、
人の気持ちがほんの少しだけ記号のようなもので見える、
という特殊能力を持っているのだ。
そんな不思議で、唯一無二なキャラクター設定が、
この物語の主軸でもあり、魅力でもあり、
また、登場人物たちに他にはない彩り・存在感をもたらしている。
一方、この不思議な力は
彼ら自身の心を揺れ動かす要素にもなっている。
それぞれが抱える感情や自分自身の心の声との葛藤…。
もしも、君の気持ちが見えてしまったら…
言えない、この想いだけは…
実は、私はまだ、この原作小説を読んでいない。
だが、今、無性に本作を読みたいという熱が高まっている。
これを書き終えたら、書店へと急ぐ自分の姿が想像できる。
主人公の京は、自分に自信が持てないでいる、男子高校生。
同じクラスの人気者、いつも明るくキラキラ眩しい雰囲気を身に纏っている
ミッキー(三木)が気になっているが…
彼は「自分なんて」と、いつもどこかで引け目を感じていて、
ただ静かにミッキーのことを遠くから見つめるだけ。
京の親友でミッキーの幼馴染でもある
高崎博文・通商ヅカを通して、
”友達の友達”に過ぎないのだと認識している。
つかみどころのない存在の黒田文・通称パラ。
ミッキーの親友で、どこか予測不能な言動で、
彼女もまた、秘密を抱えている。
背も高くて一見キラキラした王子様キャラに見えるヅカも、
実は内心、複雑な想いを抱えている。
そして、内気な性格の宮里・通称エルは、ある日突然学校に来なくなり…。
そんな彼女を救いたいと、思い切った行動に出るミッキー。
それぞれの想いが、交錯し、動き出す…。
スクリーンを観ている私は、
気づけば、登場人物たちの言動、心模様が気になり。
心配になり。ところどころ、共感でき。
もどかしく、歯痒くも思え。
寄り添いたい気持ちになり。応援したくなる。
彼らの想いは、言動は、若さゆえにまっすぐで熱量があり、
危うげであり繊細でもあり、眩しくもあり、時に痛々しくもあり。
青春時代、ティーンエイジャーの頃って、こんな…だったかなあ。
こんなこと、気にしていた、かもしれないな。
なりたい・そう在りたい自分と、上手くできなかった、
上手く振る舞えなかった…反省の、繰り返しだったかな。
もしかしたら、あの日あの時、あの頃。
気づいていないだけで、自分をはじめ、自分の周りでも、
些細な行き違いやすれ違い、かけ違い、も
あったのかもしれないなぁ。
など、遠い目(笑)で、ガラスのように透明で、
壊れやすい、青春時代を懐かしく振り返っている自分も、いた。
本作の主人公の京くんを演じるのは、奥平大兼さん。
京くんは、青春ラブストーリーの王道である、
クラスや学年一の人気者、とか、ヒーロー的要素の強い、
そんな華々しい主人公ではなく、
どこか自分に自信が持てずにいる、自己肯定感の極端に低い男の子。
口数は少なく、決して目立つタイプではないけれど、
よく見ると人としての愛らしさが見え隠れし、穏やかで不思議な存在感がある。
奥平大兼くんの、若いながらも安定した、
説得力を持たせることが自然にできる演技力が、
京くんの人となりを見事に表現していた。
そして、もうひとりの主人公、
ミッキーこと三木直子を演じるのは、出口夏希さん。
いつもクラスの中心にいて、明るくて茶目っ気もあって、
キラキラしていて、誰からも好かれるミッキーを、
スクリーンの中で快く体現していた。
透明感があって、
内側から輝きを放っているようなナチュラル・ビューティーであり、
お芝居のセンスも光っている。
”私もミッキーと仲良くなりたいなぁ”
なんて思いながら、観入っていたから笑える。
実は以前から、私は、
映画『赤羽骨子のボディガード』で共演していた
奥平さん、出口さんが本作で再共演することを知り
密かに、楽しみにしていた。
ミッキーの幼馴染のヅカこと高崎博文を演じるのは、
Aぇ!groupのドラム、佐野晶哉さん。
映画『20歳のソウル』(22)で、神尾楓珠さん演じる
主人公・浅野大義の親友で吹奏楽部のメンバー、
佐伯斗真役でスクリーンデビューした佐野晶哉さん。
彼がこれまで積み上げてきたアイドルとしての顏と
俳優としての顏が両方活かせる役だから、と起用されたそうだが
その期待に見事に応えている。
要所要所で光り、冴えていた彼の演技から、
俳優として、表現者としての魅力をしっかり感じられた。
パラこと黒田文役に、菊池日菜子さん。
素の自分となりたい自分の間で悩み揺れ動く、そして、
その二者の間にも幾層もの移り変わる表情・心情の変化があって
…という難役。
映画『月の満ち欠け』(22)で大泉洋と柴咲コウの娘役を演じ、
第46回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した彼女が演じる
パラの存在感、複雑な心境のやり場、行き場に戸惑う
繊細な10代の少女の変化や成長が気にかかり、
何度も何度も、心を強く揺さぶられた。
エルこと宮里望愛を演じたのは、早瀬憩さん。
住野よる作品の大ファンだという彼女は撮影当時17歳で
一番年下だったが、作品と演じるエル役への理解度が高く、
監督が信じて任せ、思うままに演じてもらうことで、
想定していたよりも心揺さぶるシーンへと変化した場面もあったのだという。
今後の活躍がとても楽しみな、個性輝く若手キャストたちと、
原作者住野よる氏が生み出した世界観。
その世界観を壊したくないとの想いから
住野氏と丁寧なやり取りを重ね、
演出・脚本に落とし込んでいった中川駿監督。
ほんの少し、相手の気持ちが見える、という
キャラクター設定があるとはいえ
これは、普通の高校生の物語でもある。
そのあたりの、空気感、会話のリアリティを
大切にされている演出に、
観る者は、まっすぐ、引き込まれていく。
そして、主題歌は、ちゃんみなの書き下ろし曲
『I hate this love song』。
“ちゃんみなさんは、「多様性」という言葉の背後で苦しんでいる
若者たちがいることにも、きちんと目を向け、社会現象となった『No No Girls』で
そういう子たちに、救いの手を差し伸べている。
そんな、彼女が、もしこの映画に曲を書いて くださったらどんな曲になるだろう
という想いに駆られ、思い切って依頼した”
と、プロデューサーの宇髙武志氏。
“物語に寄り添った歌詞を書いてくださって、
心から感謝しています” と。
多くの人の心に沁みる、原作の絶対的な魅力、奥深さ。
奇跡とも言える、素晴らしいキャスティング
それらを支え、引き出し、まとめた
優秀で繊細な制作陣の織り成す科学反応を、
ぜひ、ひとりでも多くの方に、スクリーンで体感してもらいたい。
一人で落ち着いて、この物語が紡ぎ出すメッセージに触れ、
感じ考えるのもよし。
青春時代をともに過ごした友を誘い出して、
帰りに、それぞれのキャラクターと自分たちの
重なるところ、気になるところなどを語り合ってみるのも
楽しいかもしれない。

