2020121日放送 TBSテレビ「この差って何ですか?」の医学解説】

医療法人社団信証会 江田クリニック 院長 江田証

 

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①胃下垂は、かえってよい働きをしている

 

 「胃下垂(Gastroptosis)」とは、骨盤よりも胃が下に下がってしまっている状態を指す(医学的には、胃下垂の診断は立位消化管造影検査(バリウムの検査)で、両側の腸骨棘を結ぶ線より胃角小弯が下位に存在するもの)。

 

 日本人の中には(時には医師の中にも)胃下垂は体に悪いことをしているというイメージを持っている人がいる。

 しかし、その先入観は医学的には間違いであることがわかっている。

 

 消化器病学の世界的な教科書である「ボッカス(Bockus Gastroenterology)」では、すでに1940年代(80年前!)に、「胃下垂には病的意義はない」(胃下垂では胃や腸の不快感を出さない)と記載されている。

 

 つまり、「胃が下がっている(胃下垂)だけでは、悪さをしない」ということだ。

胃が下がっていること自体が胃腸の不快感の原因ではなく、むしろ胃腸の不快な症状を抑えてくれていることがわかっている。

 

 胃下垂の人のほうが、そうでない人よりも、有意に肥満が少なく、有意に胃腸の症状(胃の痛み、胸焼け、もたれ)が少ないことが報告されている。

 

 特に女性においてはこのことは顕著で、女性では胃下垂の人は上腹部症状、特に「痛み」が少ないことがわかった。つまり、胃下垂は症状に対して抑制的に働いているのだ。

 

 そればかりか、胃下垂は人間の健康に有利に働いていることまでわかってきている。

 

 胃下垂の人は、胃の不快な症状がないばかりか、太りづらく、血糖や悪玉コレステロール値が低く、善玉のコレステロールが高いことが解析でわかった。

 

 飽食の現代にあっては、胃下垂はむしろ人間の健康に有利な形態と言えるのである。

 

 そもそも、バリウムで検査したとき「胃下垂」と診断された人が、ずっと胃下垂ではないこともわかってきた。

 

 数万人のバリウムでの検査をよく解析してみると、今年バリウム検査で「あなたは胃下垂です」と診断されたからといって、来年も胃下垂とは診断されるとは限らないのだ。毎年バリウム検査を受けている人で調べてみると、毎年胃下垂とは診断されていない。つまり、胃下垂は、恒常的なものではなく、タイミングによっては、胃は上がったり下がったりしているということが判明した。

 

 ただ、日本の臨床の世界では、「胃カメラ(胃内視鏡)で見ても異常がないのにもかかわらず、胃がもたれたり、むかむかしたり、胃の不調がある状態」を「胃下垂」という名称で診断してきた。

 これは誤った名前を診断につかってきたということであり、問題になっていた。

 

現在は、この「胃カメラ(胃内視鏡)で異常がないのにもかかわらず、胃がもたれたり、むかむかしたり、胃の不調がある状態」は、「「機能性ディスペプシア」(胃の知覚過敏や胃のふくらみが悪い)」というきちんとした診断名ができている。

 

 では、なぜ、胃下垂という病名が使われてきたのか、といえば、保険診療システムの問題があった。「胃カメラ(胃内視鏡)で異常がないのにもかかわらず、胃がもたれたり、むかむかしたり、胃の不調がある状態」を「胃下垂」という病名をつけて胃薬の保険点数請求が行われてきた経緯があるのだ。一種のあだ名のような意味合いで、これまで機能性ディスペプシアを「胃下垂」と呼んできたのである。

 

したがって、日本人もこのような古い常識から、いいかげん脱却したほうがいい。

胃下垂は、特に女性の胃の痛みから女性を守ってくれているのだ。

もう「私は胃下垂だからしょうがないんだ・・・」と悩むこともない。

欧米の常識と比べると、もう80年も遅れている。

そこで番組で紹介させていただいた。

このように、日本の胃腸の常識には「誤った常識」が多い。

 

{(参考)胃の形態異常で症状が出うるものとしては、「瀑状胃(ばくじょうい)」というものがある。

これは胃の一部が背中に強く折れ曲がっている状態。

この瀑状胃は問題で、上部消化管症状、特に胸焼けの独立した危険因子である}

 

 

②SIBO(小腸内細菌増殖症)について

 

 最近、これまでブラックボックスであった小腸の疾患がかなり明らかとなってきている。

 そして、過敏性腸症候群や機能性ディスペプシアなどの患者さんの小腸(空腸)液を培養して調べてみると、小腸で細菌が増えている人が多いことがわかってきた。

 

 健常人        102乗~3乗 個

 過敏性腸症候群    103乗~7乗 個

 機能性ディスペプシア 103乗~7乗 個

 小腸内細菌増殖症   105乗    個

 

を呈することが多い。

 

つまり、「お腹の調子がすぐれない」人の小腸には細菌が増えているのである。

 

通常、小腸内の細菌は、1万個程度と考えられている(培養では全ての菌数を検出できない;嫌気性菌などは空腸液を採取する際に死んでしまうため)。

 

ところが、小腸内の細菌が10万個(105乗個)を超えた状態をSIBO(シーボ;小腸内細菌増殖症もしくは小腸内細菌過剰増殖 Small Intestinal Bacterial Overgrowth)と呼ぶ。

では、過敏性腸症候群の患者さんのどれくらいの割合にこのSIBO(小腸内細菌増殖症)が存在するのか?

 

検査の種類(培養、ラクツロース呼気試験、グルコース呼気試験など)や診断基準によってもばらつきがあるが、論文報告では、60%から高い数字では84%の過敏性腸症候群にSIBO(小腸内細菌増殖症)が合併していた。

 

小腸内に細菌が過剰増殖すると、食品として食べた「発酵しやすい糖質」を細菌がエサとして食べて、発酵の過程で大量のガス(水素ガス、メタンガス、硫化水素など)を発生させる。

 

小腸で発生するガスによる妊婦のような張り、頻回に出るガスで悩む人は多いのだが医師もこれまでなすすべがなかった。

 

水素ガスが多い小腸内細菌増殖症の人は、下痢になりやすい。

メタンガスが多い小腸内細菌増殖症の人は、便秘になりやすいことがわかっている。

 

③低FODMAP食について

 

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腸の中で、急速かつ過剰な発酵を起こしやすい糖質を、「FODMAP(フォドマップ)」と呼ぶ。

 

 

次に続く。

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