20XX年 12月23日



クリスマスイヴ・イヴ。


夢からさめたら、まだ夢の続きだった。

彼の腕の中で目が覚めた。

結婚したい。

いつも、あたしの隣で寝ていて欲しい。

HALの寝顔を見ながら、強く思った。




愛さえあれば、結婚出来るものだと思っていた。


お金なんかなくても、お互い必死で働いて

ボロボロなアパートの小さなワンルームで

それでも、幸せな結婚生活を送れるものだと。




でも、HALは超大金持ちだ。

お金があって、お互い愛し合ってるのなら

結婚なんて、容易いものになるはず。


でも、お金持ち過ぎるのも良くなかったと

今は、思う。

向こうの親から反対されたり

お金目当てだと勘違いされたりする。

こんなにかっこよくてお金持ちだと、

他の女も放っておかない。

HALを自分のものにしようと、

いや、愛人でもいいから付き合って欲しいと

きっと、みんながそう思っているだろう。




少し前まで、風と結婚する事だけを想像して生きてきた。


あたしの方が年上だから、あたしがバリバリ働いて

体力ボロボロになって帰宅したとしても

帰ったら天使が笑顔で出迎える。

そして、キスして全てのエネルギーが補給される。

そんな事を妄想してたのに・・・。


今は逆だ。


お金に困らないというならば


あたしは、就職しないほうがいいの?





HALは泊まると、いつも寝ぼすけさんだ。

絶対に、あたしの方が先に起きる。

いや。昨日は夜まで仕事して

そのまま都心から都下まで車走らせて今度はまた都心まで運転して

上の人と緊張のご対面。そしてまた地元まで運転して

そりゃ疲れるよね。

「お疲れ様」

そう心の中で言いながら

HALの髪の毛をそっと撫でた。





HAL「あ…おはよう」

あたし「ごめん、起こしちゃった?」

HAL「大丈夫ですよ」




HALは目を開けないまま、

あたしを寝ながら、抱きしめた。

そしてほっぺにキス。

首に、キス。

だ、だめこれは

首はだめ




HAL「こうしたかった、ずっと」

あたし「ちょ、あの、待って」

HAL「今何時?」

あたし「9時過ぎ…」

HAL「時間平気ですね」

あたし「は、HALっ……」





あちこち、全身にキス。

あたしはもう、頭が真っ白になって

大声を出しまくっていた。




HALさんは朝っぱらから元気です、はい。

そりゃそうだ。

3ヶ月ご無沙汰だったのはHALも同じだ。


女のあたしと違って、男は溜まるもの。

浮気してなければの話だけど。





朝から愛し合って、シャワー浴びて

10時にチェックアウトした。

そしてホテルのレストランへ向かい、モーニング。

夢見心地。

やっぱりこれは、韓国のドラマとかで良くある

シンデレラストーリーだ。

ラブホなんかじゃなく、ちゃんとしたホテル。

朝食はホテルのレストラン。

もしあたしがHALと別れちゃったとしたら

理想高すぎ子ちゃんになって、

他の男と二度と付き合えなくなるんじゃ・・・。





あたし「やば、このパンめっちゃ美味しい!」

HAL「ですよね。ホテルでは白米よりも、パンの素材に拘りがあるんですよ」

あたし「へー。パンに力を入れてるんだ」

HAL「まあ、和食レストランならお米でしょうけどね」

あたし「HALも小さい時からお手伝いさんが朝食作ってたの?」

HAL「はい。時々母も作りますけどね」

あたし「そうなんだ」





あの人が手作り料理?


・・・・・・・・・想像できない。





HAL「料理って、愛を感じられるものですよね。母が料理作ってくれた時は、自分は愛されてるのかなって思いましたね」

あたし「料理かぁ。そうなのかな。あたしは逆に、レストランとかにたまに連れてって貰うと、めちゃくちゃ嬉しかったけど。他の時は?」

HAL「他の時・・・ですか。聞きました?兄さんに」


あたし「何を?」

HAL「その、母に、・・・されてた事・・・」


あたし「あ・・・・・・・・・」





HALは気まずそうに黙って頷いた。

あたしも、黙って頷いた。

本当は、アキラじゃなくてお母さんに聞いたんだけど。





HAL「あの時は怖かったです。あの時は愛されてるとは思いませんでした」


あたし「……そうだよね……」

HAL「ただ、そのせいで、そういう行為に抵抗はなくなりました。愛してるからする、というものではなく、ただの行為でした。彼女というものは、もっと特別な人だと思ってました。

愛する彼女にはそう簡単に手を出してはいけないものだと、勝手にそう思っていました」




その時、ふと思い出した。

昔付き合ってたお金持ちお嬢様の彼女とは

半年に一回ぐらいしか、した事ないと。

それを聞いた時、あたしは元カノに勝ったと喜んだ。

でも違う。


・・・・・・負けてたんだ。





あたし「HALはいきなりファミレス貸切にしてあたしにキスしてきたよね。あの時はやっぱ、あたしの事本気じゃなかったんだね」


HAL「正直に言うと、そうですね。ただ、あなたの事が嫌いでした」

あたし「うっわ!出たよ!久しぶりに聞いたよそれ!」

HAL「ふふっ。嫌いというか、イライラしてたんです。なんでこんなに生意気で自分に敵意剥き出しな女性の事、いちいち気になるのか。

なぜファミレス貸切にしたのに喜ばない?と」


あたし「いやいや、普通は喜ぶよりビビるわ」


HAL「どうしたらこの女は喜ぶのか?そればかり考えてました。でも何しても喜ばない。

風愛友は愛美さんをいつも喜ばせているのに。わたしがした事で喜ばせたい、なぜそんなに喜ばせたいのか?自分の気持ちがわからなくて、嫌気がさしてました。今までのように手を出してしまえば、きっと何かがわかると思いまして」


あたし「わかったの?それで」

HAL「いえ。余計に気になるようになって、もっと混乱しました」




この言葉、聞いたことある。

Lだ。

Lが風にキスした時、同じようなことを言っていた。


キスしちゃえば、何かがわかるような気がした。

だから、した。


でも、キスしたら、余計にわからなくなりました。


そう言っていた。


確かブログにも書いたはずだ。


HALも似たような気持ちだったんだ・・・。





HAL「女性に対して、イライラするなんて、一度もありませんでした。
好きでもないけれど、体の関係を持った女性はたくさんいました。
でもその女性が他に男が何人いたとしても

別になんとも思わなかった」


あたし「嫉妬とか・・・不安とかがなかったんだ」


HAL「はい。でも、愛美さんだけは違いました。愛美さんは今何をしているんだろう。

何を思って、過ごしてるんだろう。
そう思って、愛美さんのブログをチェックばかりして。
そして風愛友に無償の愛を捧げる愛美さんに、衝撃を受けました。

まるで風愛友の母親かのように・・・」


あたし「・・・ブログ、しっかりと見てくれてたんだ・・・ルール違反してないかチェックしてるとは言ってたけど」


HAL「もちろんそれもありましたよ。だけど、風愛友はまだ若いから・・・愛美さんの愛になかなか応えられなかった。そこが歯痒くてモヤモヤしてました。それなら、いっその事、わたしのモノにしてしまおうかと」


あたし「そうなんだ・・・」





今なら、納得出来る。


あの頃のHALは、アキラと同じだった。


愛のカケラも見えなかった。


愛のないキスに、あたしは翻弄されていた。





HAL「好きとか、恋愛感情とか、愛する事とか、未だに良くわかりません。

だけど、こんなに女性を大事に思った事は人生で初めてです。
それは本当です。でも、不可解な女心というものは、一生理解出来ないという自信はありますけど。これがわたしの正直な気持ちです。
こんな、愛を知らないこのわたしに付いてく自信はありますか?」

あたし「うん」

HAL「そ、即答ですね」

あたし「好きだから。例え恋人同士だろうとさ、所詮は違う人間なの。他人だもん。
考え方だって、育ち方だってみんな違う。
でも恋人ってものは、理解しようとお互い努力するもんでしょ?
価値観が違ってもさ…それで喧嘩になっても、
それ乗り越えていくのが恋人ってものじゃん?
綺麗事言ってるだろうけど、あたしは正直に言うと、HALの過去を聞いた時、物凄くショックだった」

HAL「そう…ですよね…」

あたし「でもね、その過去があるからこそ、あたしはHALを好きになったんだと思う。
そして、その過去がなかったら、HALもあたしの事好きにならなかった。
そう考えたら、今は過去に感謝してる。
HALには辛い過去かもしれないけどさ」

HAL「愛美さん…」

あたし「今、HALがあたしの事好きであればいい。過去なんかどうでもいい。あたしは、今もこれからもずっと、好きです」

HAL「ありがとう。わたし・・・いや、俺も、今もこれからも、ずっと愛してます」





未来なんてわからない。

Lの名言「人って変わるものだから」

でも、「今」あなたを愛してるからこそ

「未来」までも約束する。

その約束は、あたしが、破る事になるのか

HALに破られるのかは、わからない。

不確かな未来だからこそ、


確かな未来にしたくて


人は未来を、愛を、誓い合うんだ。

これからも、愛し続けますと。