また久しぶりになってしまった破産法ブログ。

 

今回のテーマは、「偏頗弁済はなぜいけないの?」です。

 

偏頗弁済、は法律家でないと分かりにくい言葉なので。具体例を挙げます。

 

弁護士にいわゆる自己破産の申立てを依頼して、弁護士から債権者に【受任通知】を出してもらった直後の【甲さんの内心】を元に説明します。

 

【甲さんの内心】

「もう、自分が負っている借金を全部、払いきるのは絶対、無理。サラ金等の債権者からの督促も辛くて、弁護士に相談したら、破産を勧められ、その弁護士に依頼。

 弁護士から【受任通知】とかいう、これから破産予定です、もう督促も直接連絡もしないでね、って内容の手紙を債権者A〜Jの10名に出してもらったら、サラ金からの督促はピタットやんで、心底ほっ照れ

 弁護士には、もう【受任通知】を出したからね、絶対返しちゃダメ真顔!、ってなんかキツく念押しされたな。借金チャラにするために破産するんだから、もう返さなくてもいいですよニコニコ、っていってもらえのは分かるけど、【絶対返しちゃダメ真顔】ってのは、なんなんだ?一部でも借りたもの返す分にはいいような気がするけど…なんでダメっていってたんだっけ…(※【前編】のテーマ)

 

 サラ金とかに必死で返してた分を返さなくなったから、ちょっと余裕できたんだよな。ひたすらずっと待ってもらってた、お世話になってる親戚のAさんや友人のBさんには返したいんだよな、、今後の付き合いもあるし、破産予定、って自分の分まで踏み倒す気なのか、ってAさんやBさんに言われてるのも辛いし…

 弁護士にはああいわれたけど、Aさん、Bさんには返しちゃお…なんか、返すんなら手続が全部終わってから、とは弁護士も言ってた気もするし…最終的に返していいんなら早くても別によくね?(※【後編】のテーマ)

 これまでさんざん待ってもらってるから、【終わってから】とか言っても言い訳に思われそうなんだよね…やっぱ、あの2人には払っちゃおうかな…うん、払おう。。」

 

こんなケースの甲さんのように、【もう、自分の債務を全て払いきるのは無理(=支払不能)】な状況になってから、一部の債権者(AさんやBさん)だけに返しちゃう行為が、偏頗弁済です。そして、このケースだと、AさんもBさんも、甲さんが【破産予定】である旨を記載した【受任通知】を受け取っていますから、甲さんが【もう私は、借金を支払うことができませんショボーン】と各債権者に表明したことも知っています。

 

この場合、甲さんが弁済しても、後から破産管財人が甲さんがAさんやBさんにした弁済について【否認権】を行使して、甲さんから受け取ったお金を返してください、と言えちゃうんですね。

 

破産手続の目的は公平な清算にあります。破産手続開始の直前の、経済状況が悪化した時期に、債務者が特定の債権者にだけ優先的にお金を返してしまった行為を、破産手続開始後にも放置するのでは、公平な清算、債権者の平等の確保は実現できません。だから、破産法は、経済状況が悪化した時期になされた不平等な優先弁済の効力を否定することができる、【否認権】という強力な権限を破産管財人に認めています。

 

甲さんがせっかく、Aさん、Bさんに払っても。「あなたは、甲さんが破産手続準備中で、もう全ての債権者に払いきれない状態なの分かっていて、自分だけ受け取りましたね。他の債権者と不平等な状況になること分かってましたよね。受け取った分、返して下さい。」と破産管財人から言われてしまうんですね。

 

Aさん、Bさんは、弁済を受けても結局返さなくてはならず、破産管財人から請求を受ける煩わしさに巻き込まれます。

 

また、偏頗弁済のような【否認対象行為】があるということは【破産管財人がしなければいけない仕事が増える】ということになります。

 

そして、【破産管財人がしなければいけない仕事が増える】ということは、【裁判所に納める予納金が高くなる】ことにつながります(※予納金は破産管財人の報酬の引き当てになるものだからです)。甲さんは、自分が偏頗弁済してしまったばかりに、AさんBさんに煩わしい思いをさせることになるだけでなく、破産手続費用として予納するお金も無駄に高くしてしまった、、なんて展開も十分、考えられます。

 

破産の申立てを依頼した弁護士に、だからあれほどもう返しちゃ【ダメ真顔】って念押ししたじゃないですか、、と言われて肩をすくめる甲さん。

 

 

(そうですね、、先生、確かに真顔で返しちゃダメ、って念押ししてましたね…こんなことになるんなら、そりゃ念押ししますよね、、でも、、、先生、手続が全部終わってからならまあ…とかなんとか、なんか歯切れ悪く言ってたよなあ…それは絶対、言ってたから返しちゃったんだよ…あれは何だったんだ…でも、今そんなこと聞いたら怒られるかなあ…)

 

…甲さんのもやもやへの回答は、【後編】に続きます(続くはず。放置しちゃうかもしれないので、読みたい方いらしたら応援して頂けると喜びます!)