その日は地元のホテルに泊まった。
カズの様子は変わらない。
もっと感情が激しくなるかと思ったけど傍目には落ち着いているように見えた。
でも口数は少なくてショックを受けているような感じだった。
カズはあこちゃんの状態を受け止めようとしている。
受け止めようと葛藤しているように俺達には見えた。
2年前は全く受け入れられなくてそれが元で病気にもなったけど、
この2年で明らかに変わったように思えた。
翌朝、
「もう一度お墓へ行きたい」と言い出した。
翔くんと相談してじいちゃんだけホテルに残して、5人で再びお墓へ向かった。
お墓の前で昨日はお参りも出来なかったのに、今日はきちんと手を合わせていた。
やっぱり理解している。あこちゃんだとわかっているんだ。
そう思ったら涙が出てきた。
潤が俺の手を握る。潤にもわかったのだろう。
涙一杯の目で俺を見る。
「良かったね」
翔くんが声をかけてくれる。
「確かな事は言えないけどあこの死は理解してるよ。
昨日からそれは感じてた。でも認めたくなかったのだろうね。
だから手を合わせなかった。でも一晩考えて決心してくれたのだと思う」
「あこも喜んでるね。あれだけ好きだったんだもん。
もう一度あの部屋を見せたいな」
雅紀くんも話に加わる。
「あの部屋はあのままなの?」
「あのままだよ。掃除はしているけど物は2年前から動かしてはいないよ。
いつでも来て良いよ」
俺達が話している間もカズはずっとお墓の前から動かない。
長くなりそうだというのは最初から覚悟していたから、じいちゃんをホテルに残してきた。
簡単に来られるような距離ではないから、気が済むまでいさせてあげたいと思った。
途中、俺達は交代で車の中で待機していたけど、カズは全く動かない。
2時間が過ぎてお昼も過ぎた。
「そろそろ終わらせないとね。帰るのが遅くなっちゃう。
また俺達で連れて来れば良いね。カズを説得してくるよ」
俺と潤とでカズに近づくとカズは声を殺して泣いていた。
カズの背中を抱いて、
「カズ、今日はこれで帰ろう。またいつでも来られるから。
俺達で連れてくるから……」
「また来ても良いの?あこちゃんの事を忘れなくても良いの?」
少し明るい表情で俺を見る。
恐らく今日限りであこちゃんの事は忘れるつもりで来たのだろう。
長く座りこんでいたカズの背中を見ていてそんな気がしていた。
「無理して忘れる必要はないよ。カズももう大人だから自分で判断すれば良い。
俺達は反対しないよ。じいちゃんもそう言ってた」
カズも今年で18歳になる。
高校生になる直前にあこちゃんに会いに行ってあこちゃんの死を知らされて、
あれから丸2年以上あこちゃんの事を思い続けてきた。
今更、忘れる事なんて出来ないと思う。
漸くお墓の前から立ち上がると、
「あこちゃん、また来るね」
そう言って歩き出したけど、少し歩いたら身体が震えて歩けなくなった。
「カズ」
声をかけると俺にしがみついて、
「あこちゃんが死んじゃった」と言って号泣した。
漸く受け止める事が出来たね。
暫くは辛いかもしれないけど、俺達が全力で支えるからね。