翌朝、翼の家に二人を迎えに行く。
隼人が翼のコーデで出てきた。
何だろう。見慣れないからなのかな、少し違和感を感じる。
隼人もせっかく翼にコーデして貰ったのに余り嬉しそうではない。
先に翼を送って、その後に隼人の現場に行こうとしたら、
「大野さん、家に寄って。着替えたい」
「隼人」
「翼さんには悪いけど俺には似合わない」
まあ、いつも隼人が着るような物とは可なり違うからな。
洋服は好みが出るから仕方ない。
「隼人の気持ちもわかるけど、今日はそれで行こう。
せっかく翼が選んでくれたんだから失礼だよ」
「でもこれからたまにコーデ組んでくれると言っていたし、
今度一緒に洋服買いに行こうと言ってた」
「コーデは嫌なら断って良いよ。洋服は一緒に行っても良いんじゃない。
そこで俺はこういう方が好きって言っても良いと思うよ。それも嫌なら断っても良いよ」
「断りづらい。大野さん……」
「こう言う事は自分で断る。そうしないと意味がないでしょう」
俺も洋服は無頓着な方だけど、誰かに買ってもらうのは好きではない。
やはり無頓着ではあるけど自分なりの拘りもあるのだと思う。
相手は良いと思ってやってくれるのだろうけど、それが大きなお世話になる場合もある。
ところが現場に入ったら特に女性のスタッフからこのコーデが好評だった。
特にメークさんが大絶賛してくれた。
「良いじゃない、今日のコーデ」
「藤田翼さんに選んで貰ったんです」
「あ~あ、どうりで。もう彼は本職だもんね。
ちょっと着心地が悪いと思ってるでしょう。でも今日1日この格好でいれば慣れるわよ。
まだ若いんだからこのくらいの方が良いのよ」
「え~、そんなこと言われたら、俺明日から何を着て行ったら良いんですか」
隼人が本気で悩んでいて思わず笑ってしまった。
リハーサルが終わり次の仕事まで時間があったので隼人に聞く。
「どうする?家に帰って着替えて来ても良いよ」
「大丈夫。だいぶ慣れた。それにこのアウターは気に入ってるんだ。
下を少し変えれば使えそう」
「うん、そうだね。隼人の好きなようにアレンジすれば良いと思うよ。
翼もそうやって自分でコーデしてくれたら嬉しいと思うよ」
翼のファッションセンスは確かに凄いから、それを参考に自分の好きな服を探して行けば
良いと思う。
隼人と言えば最初に5人で会った時の、ジーンズの上下が印象深い。
場所的にはNGだったけど、洋服は割と似合っていた。
ああいうシンプルな方が隼人には似合っている気がする。
その時、翼から隼人へLINEが入った。
「今日の隼人のコーデ間違えた。アウターはそれで良いんだけど、
パンツはこっちの予定だったのに、俺が履いてきちゃった。
少し派手だったよね」
このLINEを俺にも見せてくれた。
翼が間違えて履いてきたパンツも写っていた。
ああ、なるほど。こっちの方が隼人らしいかな。
「このパンツもくれるって」
「良かったね。隼人もこっちの方が好きでしょう」
「うん。だけど女性にはこの方が人気があった。
若いんだからこのくらいは着てもいいって」
「そう言えば翼ももうアラサーだからな。おじさんだ。
その感覚で選んだのかも」
そう言ったらいきなり翼の声がしてきた。
「俺がおじさんだったら大野さんはおじいちゃんじゃないですか?」
隼人がこっそり翼に電話をしていたようだ。
「翼、余計な話していないで、収録はちゃんと進んでるの」
「うん。大丈夫」
それ以来、隼人は時々翼の洋服を貰っているようだ。
「いらない物を押し付けているんじゃないだろうな」
「そんな訳ないでしょう。可愛い後輩だもん」
まあ、そうだな。今まで翼がこんなに仲良くなったのは、潤のドラマに出演した時に兄弟役をやった子ぐらいかもしれない。余り人と関わるのが苦手だから、居心地の良い人だけを傍に置く感じだ。
隼人もそれは似ている。デビュー当時はもっと明るかった印象だけど、
色々な事を経験するうちに、人間関係に関しては少し慎重になっているような気がする。
そんな傷ついた経験を持つ二人が仲良くなったのも、何かの縁なのかもしれない。
お互いに数少ない芸能人の友達。仲良くして欲しいなぁ。
それから暫くして、以前話だけ聞いていた翼が連載をやっている月刊誌で、
隼人と一緒に表紙を飾る事が決まった。
嬉しい知らせに翼は大騒ぎだった。