【秋田】クマ被害拡大も「殺すな!」の声が殺到 動物愛護クレームに現地困惑 | トピックス

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2025年11月7日 デイリー新潮

 

 秋田県の“クマ問題”が深刻な状況になっている。今年度も県内のあらゆる地域でクマの出没が続いており、人身被害も各地で多発、11月3日現在3人が死亡している。事態を重く見た秋田県の鈴木健太知事は、10月27日、防衛省に対して自衛隊の派遣を要望したが、クマが冬眠するまで収束する気配はなさそうである。

 

被害は広まる一方だが…(新潮社) 

 

【写真】道端でこの目に睨まれたら…スプレーをかけても怯まず襲いかかるツキノワグマの攻撃体制

 

 一方で、行政関係者を悩ませているのは、クマの駆除に反対する過激なクレームである。依然として役所にはクレームの電話が相次ぎ、業務に支障が出ている状況だ。秋田県議会議員の宇佐見康人氏によると、クマとはまったく関係のない、犬や猫を保護する動物愛護センターにまでクレームを入れた人までいるという。 

 

 筆者は秋田県の出身である。地元に住む友人や知人に、クマ騒動についてどう思うか話を聞いたところ、「正直言って、コロナ禍の時よりも深刻な問題かもしれない」と話す人もいたほど、秋田県民にとって最重要の課題になっているのは間違いなさそうだ。今回はそうした生の声を紹介するが、コメントをした人に対して嫌がらせが行われる懸念があるため、匿名としている点をご了承願いたい。【取材・文=山内貴範】

街中でごく普通にクマに遭遇する

 筆者の実家がある秋田県羽後町は、クマ騒動の前からクマがよく出る。といってもそれは山間部の話。ところが、ここ数年は、クマが山の麓まで下りてきて、住宅が多いエリアにも出没するようになってしまった。羽後町に住むA氏はこう話す。

 

「羽後町ではクマの目撃が相次ぎ、小中学生がいる親に対して、なるべく車で送迎をお願いしますと通知されているそうです。県内のニュースを見ても、シャッターを開けたらクマがいた、農作業中にクマに襲われたなど、突然クマと遭遇する事態が相次いでいます。実際、僕もいつクマに出くわすか、気が気でなりません」

 

  クマが、大仙市に住む高齢者を背後から襲撃した衝撃的な映像は、記憶に新しいところである。横手市内在住のB氏も、このようにコメントする。

 

 「街中でも普通に遭遇するので、本当に外に出るのが恐ろしいです。本当かどうかは不明ですが、強い個体が山の食べ物を独占し、弱い個体が里に下りてきているという噂が広まるなど、真偽不明の情報が錯綜しています。秋田は“銀牙”(秋田県東成瀬村出身の漫画家、高橋よしひろ氏の漫画)に登場するような、クマ対策の犬を育成するべきではないでしょうか。いずれにせよ、これまでのクマ対策の常識を見直す必要があると思います」

外出自粛による県民の健康が心配

 B氏が話すように、クマが市街地にも出没するようになり、日課となっていたウォーキングをやめたり、外出を控えたりする県民が増えているようだ。そんななかで問題視されるのが、健康面での問題である。秋田県内で開業している、筆者の知人の医師C氏は、このように話す。

 

 「私が診察する患者さんの話を聞くと、明らかに運動不足になっている人が多いようで、不安です。コロナ禍のときも極端な自粛で体が弱くなり、かえって病気にかかりやすくなったり、膝や腰を痛めてしまったりする人が見られました。秋田県は車社会で、もともと東京の人よりも不健康になりがちですが、クマの影響で深刻な運動不足に陥っていると思います」 

 

 高齢者は言うに及ばず、子どもたちの健康面も心配である。筆者の知人で子どもが2人いる秋田市在住のD氏は、「子どもたちを外で遊ばせると、いつクマに出くわすかわからないため、家のなかで遊ばせている」と話していた。D氏がこう話す。 

 

「正直、過剰反応な気はするんですよ。それでも、近所で何度もクマが目撃されているため、怖くて仕方ないんです。私は秋田市に40年住んでいますが、今までは目撃情報なんてなかった住宅街にも普通にクマが出る。まさに前代未聞で、どうすればいいのかわからないんです。行政のみなさんも頑張ってくださっていると思うのですが、なかなか不安は払拭できません」

愛護団体によるクレーム電話は大迷惑

 県民が不安に感じる一方で、問題になっているのが“人間”によるクレームだ。一部の動物愛護団体による抗議活動はエスカレートしており、前出の宇佐見氏のXにも連日のようにクレームが書き込まれている。今回話を聞いた県民の全員がそうした団体に対して不満を感じていたが、D氏は「クマ対策を妨害している人間のほうが遥かに恐ろしい」と話す。

 

「どうせなら、外部の安全圏から文句を言うのではなく、秋田県に住んでみてはどうか。人口が増えれば、クマの生息域が少しでも狭まると思います。でも、そういう団体の人に限って、ゴキブリやアネコムシ(注:秋田県でカメムシを意味する方言)のような昆虫も怖がるパターンでしょう。口だけの連中が、クマと共存などできるわけがありません」

 

  そして、某市の役所に勤務するE氏は、実際のクレームを電話で受けている。そのときのやり取りをこう話す。 

 

「電話口でいきなり、大声で“クマを殺すのは何事か!”と言われたんです。私がいる部署はクマと何も関係がないので、おそらく、手当たり次第に電話をしているんでしょうね。相手は中年以上の男性と思われますが、延々と10分も早口で説教が続き、いったい何を言っているのかわからなかった。こちらが口を挟むことができませんでした。

 

  最終的には上司が対応してくれてどうにかなりましたが、抗議電話の対応だけで疲弊している職員も多いようですね。こんなことを言うとまた怒られそうですが、愛護団体だけでなく、やることがなくて暇を持て余している人が面白半分で電話をしている例もあるのではないでしょうか」

「役所もはっきり言ってお手上げの状態」

 クマの出没が相次ぐ事態に対し、秋田県は決して手をこまねいてきたわけではない。これまでもクマ問題に向き合い、共存を模索し、対応してきた歴史がある。しかし、ここまで問題が深刻化してしまうと、「役所もはっきり言ってお手上げの状態」(前出のE氏)なのだろう。

 

  クマの冬眠を機に、問題はひとまず落ち着きそうだが、それまでの間、特に11月は紅葉見物やキノコ狩りが本格化するシーズンである。どんな場所でもクマが出没するようになったが、やはり山のなかは遭遇する確率が格段に上がる。一人では山に入らないようにするなど、当面は自衛を心掛けるしかなさそうだ。

 

  宇佐見氏はXで、「秋田県はツキノワグマという種との共存を目指していますが、人里に出て来てしまった個体に関しては残念ながら駆除するしかありません」と訴える。これがクマ対策の基本中の基本といえるが、理解してもらえない人間との戦いも展開されている状況だから、厄介である。

 

  クマと理想的な共存の関係を築くために、どのようにしていくべきなのか。秋田県の模索は今後も続きそうである。

 

ライター・山内貴範 

デイリー新潮編集部