マリア・モレノと同様、Youtubeでしか見たことなかったけれどどうしても会いたかった人が、La Lupi ラ・ルピです。

スペインや、世界中で大人気のアーティストです。
最近ではスペイン国立バレエの振付家としても高い評価をされています。

私はタラントを6日間 受講しました。

とてもとてーも熱い人!
踊ってるそのままの印象の方でした。
{F1B7AD60-EBC7-4860-A48C-06F03D9977BD}

踊り以外にもとても興味深いお話の数々をしてくださいまして、曲の歴史や背景、構成はどうするのが一般的でその理由はなぜかetc。
歌い手が一人のとき、二人のとき、バリエーションにどのような違いが出てくるのか。
そして、タラントにはなぜダンゴ・デ・”グラナダ”なのか。
毎日、夫であるギタリストのクーロ・デ・マリアがクラスで弾いて歌ってくれていたのですが、ギターと歌を伴っての解説にはとても説得力がありました。

このクラス、一応「上級」クラスだったのですが、上級といわれて尻込みするのはじつは日本人ぐらいです。
フェスティバルで外国人が多く集まるときには特に。
外国人の皆さん、自分のレベルは気にせず参加してきます。
コントラできません、そのことにすら自分で気付いてないなんて人も沢山混じってきます。

教える側は非常にやりにくいだろうなと思うのと、できる人にとってはクラスが進まず不満が募る、という困った事態にあることもときどきあります。

しかし今回、誰よりも「上級クラス」ということにこだわったのが、先生のルピでした。
(あとで聞いたことですが、その前の中級クラスとは厳しさが全然違ったそうです。)

ことあるごとに「これは上級クラスなんだから!」 「昨日より何も向上もしてない!それどころか振りを覚えてすらいない?!上級なのに!これは信じられない事態です!」

そして何度も何度も「タラント、聞いたことある???」 「今日帰ったら、明日のクラスまでにひたすらタラントを聞いてきて!!」

厳しいながらもとても熱心で愛情にあふれたクラス。
叱ることはあっても決して見放すことはない。

コントラのところで走ってしまう人が沢山いて、「タラントを聞いてきてないからだよ!聞いて!ちゃんと聞いて!」とルピは譲らない。

「タラントのクラスに来て、「タラントのコンパスが分かりません」。そんなのありえない!だってここは上級クラスなんだから!」

コントラができないというのは、ルピに言わせるとそれは「コンパスが分かってない」せいであって、「音楽を聴いてない」「音楽を感じてない」からだそうです。
特に目立って走っている人には容赦なく「明日まで夜通しタラントを聞いて来い!」と叱る。
それが何日も続く。

しかし、、、コントラできないのってそういう問題じゃないのでは?と、構わず先にすすんでくれと直訴する人も出てきました。
何しろ、一番叱られている本人がスペイン語が分からず、周りの生徒さんが英語や身振り手振りで助けたりする始末。
言われていることをどこまで理解しているかも疑問でした。

でもルピは諦めない。
先生がそうなら、生徒はついていくしかない。

一応コントラが大丈夫の人でも、こうやって何日も引っかかっていると、さすがにわが身を振り返ってみたりし始めます。
コントラ、ずれている人がいても引きずられずに刻めるのか。
自分のなかにぶれないコンパスがあるのか。
タラントのコンパス、私は本当に分かっているのか?etc.etc...

「クラス受けると決まったらね、申し込んだの何ヶ月前?その日からタラントタラントタラント!何百回でもずーっと聞き続けるの。学ぶってそういうこと!」 

ルピのこの言葉にはドキリとしました。
タラントなら知っている、踊ったこともある。
だけど、クラスを受けるために死ぬほどタラントを聞いてきたかというと、Lupiに対して堂々と言えるほどではありません。
今回のクラスに限らず、振付けを習うときにそこまで聴き倒すかな?と。
しかも申し込んだ日からって…

こうして、日に日に自分自身に向き合う時間も多くなっていきました。

そして、たしか5日目だと思います。
突然大きな変化。

コントラを目立ってはずしていた人たちが足のボリュームを落とし、決してできているわけではないのだけれど、クラスの進行に支障をきたさないようになりました。
ルピが興奮気味に、昨日まで一番叱っていた生徒さんに

「タラント、聞いてくれたのね!昨日聞いたでしょ?家でタラント聞いてきたのね!?」

「そうよ!これが上級クラスです!決して完璧を求めている訳ではない。歌を聴いて、音楽を感じて、タラントのコンパスを理解している。それこそが上級です!自分ができなければ、コンパスを乱さないように待っていればいい、それが分かっていればいい。上級クラスにようこそ!!」

いろんな意味で数日間緊張を募らせていた教室が一気に明るくなり、みんなから拍手拍手。
ルピの不可解な執着とも思えたことが、こうやって実を結ぶ瞬間はとても感動的なものでした。

これを何と説明したらよいかずっと考えていたのですが、いちばんしっくりくる言葉は「しつけ」なのだと思います。

ここまでしてくれる方は珍しいです。
しかもフェスティバル中の短期講習で。
踊り以前に、クラスを受けるにあたっての心構え、整えておくべきコンディション、身につけておくべき知識や技術。
自分の教室とか舞踊団ならともかく、言い方悪いですが、ただの通りすがりの外国人たちに対してここまで求めてくる。

おかげでたしかに振り付けはあまり進まなかった。
でもルピが教えてくれたことは、フラメンコの心でした。

どんどん振付が進まなかったものの、動き一つ一つに意味があり、何をどこに感じ、どうやって思いを込めていくのか。
それは何よりも大切なものであって、一日二日のクラスでは身にしみて分からなかったことでした。

「カラスコがこうやって腕をさっと上げる。ただそれだけのことの何が素晴らしいのか。でもね、こんな動き一つでもそこに”心”があるかどうかなのよ。見てて。」

と言ってやってみせる。
本当に腕をさっと上げるだけ…

言葉での説明には限界があります、すみません…
それは本当に本当に素晴らしい瞬間でした。
生徒の何人もが、思わずそこで涙を流すほど。

これに限らず、なぜかLupiがただ話をしているだけで自然と涙があふれてきてしまう。
今回は残念ながらLupi の舞台を見る機会はなかったのですが、クラスを受けられてただけでも素晴らしい体験でした。

そして最後の日のクラスの後、Lupi がくれた言葉。
「フラメンコを愛しなさい」
6日間通して教えてくれたこと、これが全てでした。

もうスペインはいいかなとか、わざわざ行かなくても、と言う人もたまにいます。
たしかに日本には沢山のアーティストが来日する昨今なので、特に東京では、質の良いショーを見たり、クラスを受けたりすることも可能です。
でも、Lupiのように日本にはまだ来たことがないアーティストも山ほどいて、そして日本で見知ったアーティストでさえ、日本で見るときとはまた別の姿に見えることもあります。
どちらが良い・悪いということではなく、自分の国、自分の土地にいる彼らの姿は、あちらでしか見られない。
だからわざわざ行かないと分からないことも沢山あると思うのです。

多少無理をしても、短期であっても、何度でもここに戻って来なければいけない。
今回、スペインに行くのがすごく久しぶりだったせいもあって、なおさらそう強く感じました。