最初は退屈に感じるも、キラキラした日常を切り取った良作

 

「逆光の頃」はタナカカツキさんの同名漫画を実写映画化した一作。「ももいろそらを」などの小林啓一監督がメガホンをとり、「トリガール!」などの高杉真宙さんが主演を務めた。共演は朝の連続テレビ小説「わろてんか」で主演している葵わかなさん。

ストーリー:高校二年生の赤田孝豊は幼なじみのみことと微妙な距離感の関係を続けている。彼はクラスメイトの公平がバンド活動をがんばっている中、自分の存在について思いをめぐらしつつ、生きていた。

 

良い映画でした。
面白かったというのとはまたちょっと違う感じがしますが、観て良かった作品でした。

何ですかね。青春そのものというか、観ている人を青春時代にタイムスリップさせるような、そんな映画だったと思います。上のストーリー紹介を見てもらえばわかるように、物語はほとんどないんですよね。だから、最初はものすごい退屈で、「これはやらかしたか」と思っていたのですが、徐々にその「退屈な日常」の中に自分が入っていってしまっていて、映画の中にいるような錯覚を覚えました。

これでいいんだ。っていう。

今までのレビューを振り返ってもらえればわかると思いますが、僕は比較的脚本を重視するタイプの人間のようなので、こういうのは珍しいですね。いや、別に話がないとか、そういうわけではないんですよ。この作品。ただ、話を聞くだけだとめちゃくちゃつまんないんです。そのくらい日常を描いていて、大きな起伏がないような物語になっています。それを、美しい映像と、派手ではないけど臨場感ある音とで見事に魅力的な作品に仕上げています。これがすごいですね。この没入感は映画ならではだと思いますし、そういう意味で「映画」というジャンルで最適な形に作品を落とし込んでいます。僕は小林啓一監督作品が今のところすごく好きなのですが、「ももいろそらを」は脚本がすごく好きだったことに対し、今作は映像と演出がすごく好きでした。

観客に青春時代を追体験させることは意図して作っていたと思うのですが(意図してないってことはないと思う)それには成功していたと思いますし、そういう意味ではメリハリとか音の大きさとか、そうしたことが本当にしっかり計算されていたのだと思います。それがすごいですね。どう考えたらそれが計算できるのか。

あと、今作の魅力を語る上で欠かせないのは高杉さんと葵さんの演技ですね。特に葵さんは非常に魅力的で、本当に可愛かったです。派手ではないんだけど、ヒロイン性が半端なくて。一方で高杉さんは観客に自分を投影させるべく、没個性的な主人公をしっかり演じていて、良かったです。不自然な反応があれば、一気に冷めてしまうような役どころなので、難しかったとは思いますが、それを上手く演じきっていました。

もうとにかく青春時代を思い出すというか、何だかその場で一緒にいるような、細かい息づかいまで聞こえてくるような、そんな距離感が魅力の映画でした。
残念ながらもうほぼ上映が終わってしまっていますが、非常に良かった、おすすめの一作です。

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