今回も、グレン・ドーマン著【親こそ、最良の医師】(サイマル出版)


からの引用・解説をさせて頂く。



 1952年、歩行不能な脳障害児たちには、食事や世話、愛撫を


受ける以外は、1日中、床の上で、うつ伏せの状態で過ごすべ


きであると、断定できるようになった。通常の人間は、生れた後、


一定の期間を経ると、這い這いが出来るようになり、その這い


這いが上手に出来ると、掴まっての立ち上がりが、上手に出来


るようになり、その後は、少しづつ歩けるようになっていく。


 だが、脳障害児たちは、歩けるようになる為の前の段階であ


る、床の上に置かれて、這い這いをする練習の機会が、与えら


れていなかったのである。普通の子供たちも、もし、這い這いを


する機会を与えられなかったら、歩けるようにはならないのであ


る。それを、医学的な背景から説明をすると、下記のようになる。



脳には、下記の4つの基本的な重要部分がある。



1.4つのうちで、最も低次の部分である「延髄」。延髄は、胴体・


 腕・足を動かす能力を司っている。魚類は、延髄以上の脳を


 持っていない。


2.次の高次の部分は、「脳橋」である。これは、床に腹部を押し


付けて、手足を動かすことによって、身体を移動させる能力を司


る。腹這うためには、脳橋が必要で、山椒魚や蛙の両生類は、


発達した脳橋をもっている。


3.脳橋の上には、中脳がある。中脳は、這うための機能で、


トカゲやワニの爬虫類や四足獣も、延髄・脳橋・中脳が、よく


発達している。


4.脳の最上部には、大脳皮質があり、人間らしい機能をもつ。


 大脳皮質の機能には、5つある。直立する能力。親指と人差


し指により、つまみ上げる能力。言葉を使って会話をし、意志


伝達を行う能力。耳から聞いた話を理解する能力。そして、


最後に、文字を読んで理解する能力の以上である。



1957年・・・ドーマン博士らは、より自信に満ちた治療法を


次のような内容にまとめ上げた。



1.歩行不能な子供は全て、腹這いか、這い這いをするように、


床の上に腹部をつけた状態で、1日過ごすこと。


2.すべての子供たちに、1日5分間づつを4回、障害の程度に


応じて、胴体パターンニング(手足を上手く動かすことが出来


ない場合)、同側パターンニング(上手く腹這いが出来ない場


合)、交差パターン歩行(上手く歩けない場合)などの、どれか


が行われる。


3.視覚・聴覚・触覚などの感覚を失っている症状の子供たちに


は、その失った感覚を刺激特殊な治療が用いられた。


4.正常人の場合には、左右の大脳皮質の、どちらかが優位に


 あるのだが、脳障害児たちの場合には、それが混乱する場


 合もあるので、それを優位にする治療法も作られた。


5.口元にマスクを使用することで、肺活量が改善される。


 これは、マスクを使用することで、血液中の二酸化炭素の


量が多くなり、血管が拡張することで、結果として、脳が必要


とする多量の血液量と酸素とが増す効果と、風邪をひかなく


なる効果とが得られることがわかったからである。



 また、従来のリハビリ療法と、このドーマン療法との違いは、


脳に障害があるのだから、その障害のある脳の箇所へ刺激を


送るために、視覚・聴覚・触覚を中心とした感覚器系を刺激する


ことで、脳へ刺激を送るという理論を、実際に活用した事である。


 医学を学んだ者ならば、誰もが知っているように、手足の筋肉


=運動器系は、脳からの一方通行の命令を受けて動くものであり、


脳へ行くのは、感覚器系(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)だけで


あるから、これまで行ってきた、アメリカでの従来の運動療法は、


運動器系を刺激する事で脳へ刺激を送る方法だから、効果が


得られなかった・・・ということを発見したのである。


 これを、別の言葉で表現をすれば、「機能が構造を決定する」


治療法を、ドーマン博士らは採用したのであり、逆に、これまでの


アメリカでのリハビリによる運動療法は、「構造が機能を決定す


る」という考え方で行なっていたから、医療者側が、いくら献身的に


治療をしても、効果は得られなかったのである・・・と、ドーマン博士


は、述べている。



1960年9月17日号、全米医師会の機関誌に掲載されたドーマン


博士らの研究内容は、以下の通りである。



「76人の重度の脳障害児たちは、全員、著しい進歩を示した。当初、


腹這いが出来なかった37人は、全員が、ある程度まで、腹這いを


習得し、そのうち10人が這い這いを、3人が歩行を習得した。また、


始めは腹這いが出来たが、這い這いが出来なかった16人のうち、


5人が這い這いを、6人が歩行を習得した。不完全ではあったが、


何とか歩くことが出来ることが出来た20人のうち、12人が交差パ


ターンで歩けるようになった。この研究が終えた後も、殆どの子供


たちは、まだ回復を続けている最中であった・・・」と。



   あとがき      ・・・ africa-jidoni から一言 ・・・


 

 この本の中には、脳に重い障害をもった、男女の子供たちが、


ドーマン医師グループが開発した、世界で初めての運動療法により、


歩けない障害児が歩けるようになり、目が悪かったのが見えるように


なり、聞こえが悪かったのが聞こえるようになり、わずかな音にも


敏感で驚いていたのが、驚かなくなり・・・という、色々な病状が軽減


していった実例が、詳細に掲載されてある。


 ドーマン療法というと、日本国内では、知能指数が高まる英才教育


の1つとして、一時、マスコミでも紹介・取り上げられた過去があったが、


元来は、病んでいる箇所の脳を刺激して、健常な脳に良くなってもらう


為に開発されたものである。


 また、このドーマン療法は、日本国内では、諸事情があって、公開・


公表がされないが、欧米や南米では、この治療法を取り入れる医師


たちが増加している。この本で述べている、脳に障害をもつ子供たち


だけではなく、たとえば、ダウン症の子供たちが、これを行っていくうち


に、病状が軽減すると共に、顔の表情も、健常者のように、普通の顔


に変化していく症例も、別の本に、紹介されてある。


 ドーマン博士らの本部は、アメリカのペンシルベニア州フィラディル


フィアに、「人間能力開発研究所」という英語の名称で存在しており、


その支部は、欧米と南米にも広まっているが、それらの方法に、脳や


体内に溜まっている、有害なモノを排泄させる成分を含む食べ物や


飲み物を摂取する食餌療法も併用していったら、もっと効果が高ま


るのではないのか・・・? と思っている。


 因みに、運動を行う時は筋肉が動く。筋肉が動けば、筋肉がある所


に分布している神経細胞から、神経伝達物質のアセチルコリンが分泌


される。アセチルコリンは、認知症の人たちが飲む薬、アリセプト(「エ


ーザイ」という製薬会社に、以前勤務しておられた杉本八郎氏が開発


された、世界的に有名な認知症の医薬品名)と、同じモノなので、認知


症になりたくない人は、やはり適度に体を動かすことは、忘れやすい


ことを予防する効果も期待できる。


 また、ゆっくりで、リズミカルな、軽い音楽を聞きながら、体を動かす


と、うつ病の人が飲む薬、セロトニンが、脳から分泌されるという。


(国際医療福祉大学院教授 武内孝仁著【認知症のケア】 年友企画


からの引用による)


 自分の好きな楽しい音楽を聞きながら、家事をしたり、軽い運動をする


ことは、脳の健全化にも良いようである。