[歯ぎしりと思っていたら… 顎口腔ジストニアの早期発見を]
(京都新聞 2015年6月4日)
口や顎、舌、唇などの筋肉が無意識に収縮する「顎口腔ジストニア」を患い
ながら、顎関節症や歯ぎしりと診断されやすい。
まれな病気で、経験豊富な歯科医師でも患者と接する機会が少なく、見落とす
ためだ。
悪化する前に、適切な治療を早く受けられるように、国立病院機構・京都
医療センター(京都市伏見区)の歯科口腔外科はセルフチェック表を作成し、
患者の理解を呼びかけている。
ジストニアとは、筋肉の収縮を調節する大脳基底核や神経系統に何らかの
障害を受けた結果、全身または身体の一部に、ねじれや硬直、けいれんなどが
生じる疾患だ。
思い通りに筋肉が動かなくなり、肉体的、精神的に苦痛を伴う。
頭が傾いたり、まぶたが自由に開けなかったり、字が書けなくなったりと、
日常生活に支障を来す場合もある。
<8割が違う診断に>
ジストニアの疑いがある患者は原則として神経内科を受診するが、顎口腔
ジストニアの場合、口腔外科が専門領域になる。
代表的な症状として、無意識に
・口を閉じてしまう
・口を開いてしまう
・舌が前に出てしまう
・下顎が横へずれる
などがある。
京都医療センター歯科口腔外科は2007年7月から専門的な治療を始め、
全国から500人近くの患者が受診した。
吉田和也医長は「顎口腔ジストニアは患者さんだけではなく、医療関係者の
間でも、ほとんど知られていない。適切な治療を受けられず、症状が悪化して
から受診するケースが多い。例えば、閉口ジストニアの患者さんは約8割が
顎関節症と診断されている」と指摘する。
早期発見につなげようと、「口と顎の筋肉に無意識に力が入って動いて
しまう」など、特徴的な症状を挙げ、10項目のセルフチェック表をつくり、
ネット上で公開している。
自己診断で6項目以上該当すれば、専門医の早期受診が望ましい。
京都府南部の30代女性は1月、緊張すると、突然舌が出て、話せなくなる
症状に襲われた。
近くの歯科医を受診し、虫歯の治療を受けたが、症状が改善せず、総合病院の
歯科口腔外科と神経内科でも「よく分からない」と言われた。
ネット上で「舌が出る」という言葉で検索すると、吉田医長のサイト
「顎口腔領域の不随意運動」にたどり着いた。
セルフチェックを実施すると、10項目のうち、7項目が該当したという。
<治療の苦痛少なく>
女性は4月に受診し、局所麻酔薬によるブロック療法を定期的に受けている。
苦痛も少なく、顎に数カ所注射しただけで治療が終わった。
「レジ打ちの仕事で毎日、200人以上のお客さんと接していた。正確に数字を
伝えるという緊張感の連続だった。病名が分かって、ずいぶんと気持ちが楽に
なった」と話す。
京都市の40代男性は5年前から治療を開始。
「営業職で、人前でしゃべろうとすると、顎が後方に引きつけられ、舌が
出そうになった」と言う。
現在も3~4カ月に1回の割合で、筋肉の収縮を抑制するボツリヌス療法を
受けている。
「ボトックス」と呼ばれるA型ボツリヌス毒素製剤を局所注射するだけだ。
男性は「飲んだり食べたりする時に支障はないが、人と話す時だけが困る」と
訴える。
顎口腔ジストニアの治療には、ブロック療法やボツリヌス療法のほか、
内服治療、マウスピース、口腔外科手術などがある。
吉田医長は「症状の種類や状態によって治療法を選択する。
症状が軽い段階で治療を始めた人ほど、総じて治療効果が高い」と説明する。
また、長時間に渡って口や顎に緊張した状態が続くためか、受け付け、営業、
教員、司会など、話す職業に多いのも1つの特徴だという。
潜在的な患者は相当数に上るとみられ、まずはジストニアに対する正しい
理解が欠かせない。
http://www.kyoto-np.co.jp/politics/article/20150604000139