男爵は涙をぬぐうと、剣をしっかりと握り締めウルティモの小屋へと向かった。

小屋の中では、マッティーナとノッテが目の前で起こったことを上手く信じられなかった。

「じ、じいさんよ、どうなってんだありゃ。結界はどうしたんだよ?」

「全く理解できん。結界は破られ、剣は自らの意思で男爵の手に入った。これは…。」

「講釈はいいからよ!何とかしねぇと俺たちまで…。」

「うろたえる事はないわ!若造め。こっちには人質がおる。そいつを連れて外へ出て、男爵に剣を捨てさせるのじゃ。その上で魔術を使えばよい。」

「よし!」

そういうと、マッティーナはボロネーゼの首の短刀を突きつけ、おもてへ出た。

「男爵!よく見ろ、こいつの命が惜しかったら今すぐ剣を捨てろ!」

「王子!私の事は構いません、こいつをやっつけてください!!」

ダガーはますますボロネーゼの首に食い込み、今にも鮮血が飛びそうだった。カルボナーラ男爵は家臣の命には代えられないと、剣を捨てた。

ガラン!

「ふふん!いい子だ。じいさん!」

呼ばれたノッテはすぐさま小屋を飛び出し、口の中で呪文を唱えた。

「雷よ!」

その時だった、剣が急に光り輝き稲妻の力をその中に吸収すると間髪いれずノッテめがけて飛んだ。

「な!」

ザン!!

ノッテの身体を突き抜けた剣は再び男爵の手の中に収まった。

「ば、馬鹿な…。」

「さぁ、後はお前だけだ。今すぐボロネーゼを放すのだ。さもなければ…。」

「しゃらくせぇ!!」

ボロネーゼを突き飛ばすと、マッティーナはひらりと宙を舞い、男爵へと飛び掛った。

「死ねぇ!!!!!」

男爵は悠々と剣を構えなおし、一振りでマッティーナを倒した。

「王子!!!よくぞ、ご無事で!」

「いや、アランチャのおかげだ。彼女が助けに入らなければ、私はあの女騎士に倒されていただろう。アランチャ…。」

「アランチャが…?」

二人は、アランチャを小屋の中へと運んだ。意外に重かった。そこで、彼女を葬り最後の別れをした。

「この戦いが終結したら、彼女に立派な墓を作ってやらねば。」

「そうですね。おかげで剣も手に入ったことですし。」

「しかしな、ボロネーゼよ。こんなにもたくさんの人間が血を流し、命を落としそれでも私は王にならねばならないのか?それが本当の平和というものか?私は何のために戦い、何のために知らぬものの命を奪わなくてはならないのだ?」

「王子、その答えはきっとこの旅の終わりにわかります。それまでは何も考えずただひたすら、姫を救出する事だけお考え下さい。」

「しかし…。」

「さぁ、参りましょう。今はまだ迷っている時ではありません。姫を助け、この国を救うまでは。」

男爵は落ちそうになる涙を、天を仰いでごまかしゆっくりとうなづいた。使命とは、運命とは疑問を抱く事すらかなわぬものだと思うと自分のちっぽけさが悲しかった。

主従は明るくなり始めている東の空を確認すると眠る事もなく、ボートの紐を解き、上流へと帰っていった。

アラビアータの塔を目指して。


第一部 完


第二部は12月4日から再開します。