アッシェンバッハの彼岸から -102ページ目

無間地獄のはずだった

今週は〆切が幾つもあったのだ。
それで、某ハリウッドスターの来日記者会見記事の依頼がきたときも、
とても無理ですと答えていた。
もちろんミーハーなわたしであるから、ハリウッドスターというやつを生で拝んでみたかったんだけど。


ところがである。前日のことだ。編集部の女の子が息せき切ってやってきた。
「明日の取材を頼んでたライターが急遽、来れなくなって・・・。代わりに行ってもらえませんか」
しかたないからその日は終電間際まで残業して、翌日、会場のある一流ホテルに駆けつけた。
マスコミ受付開始直後だというのに、巨匠監督&大スターの4年ぶりの来日だけあって、ロビーは大混雑。

スチルカメラ担当のSさんと入り口で別れ、わたしは記者席へ。
最前列に席はすでになく、3列目に腰掛ける。
お、なかなかいいじゃん。大スターの正面だ。
後ろを振り返ると、ムーヴィーカメラがずらり。すげー。日本の映画とは大違い。さすがはハリウッドスター。


やがて予告編の映像と共に、巨匠監督とスターがお目見え。
うわー。特にタイプっていう役者でもなかったけど、実物ってやっぱりかっこいいのねえ。
こざっぱりとしたダークグレーのスーツにブルーのシャツ、ノータイ。
かつてはあんな繊細少年だったのが嘘みたいな貫禄。さすがはスターですな。
そんで何しろ彼の目、映画よりずっと魅力的なのだ。吸い込まれそう。
などなど、ミーハー丸出しながらデジタルレコーダのスイッチを入れる。


これは嘘つきの映画。嘘をつき続けて、破滅する男たちの話。

件の大スターはというと、これは生来の「嘘つきの天才」。
目だけでキャラクタのジレンマやらペーソスを表現することにかけては、
同年代の俳優の中じゃ右に出るものはいないとわたしはおもっている。

そんでこの映画は、こんな彼の面目躍如とも云える作品。


さてここからは少々、裏話と行きましょうか(こんなこと書いてていいのかな)。
記者からの質問はすべて、同時通訳の女性が手早く訳して本人たちに伝えるのだが、
面白いことに、意外に通訳の人がわざとなのかな?ちがったふうに訳すことがあるんですね。


監督はこの映画で、ゴールデングローブ賞を受賞した直後の来日。

「アカデミー賞に向けて抱負は?」という平凡な質問に対しての答えが熱かった。

通訳の人はこう訳した。


「私は賞のために映画を撮っているわけではありません。私は怒っています。今も怒っています。

これは『XXXX』のリメイクですが、私はこれまで、歴史的な筋書きのある作品というものを撮ったことがありません。

ですから批評家の反応にとても驚いているんです。

この映画を撮ったことで、かつてのB級作品などからもさまざまな影響を受けました。」


意味わかんねえ!!!


何だよ、「歴史的な筋書きのある作品」って。だいたい話の筋が通らないじゃないか。

そもそも一体何に怒ってるわけ?!


監督が実際に答えたのは、こういうことなんである。


「オレは賞のために映画撮ってんじゃないんだよ。だいたいオレは怒ってるんだ。

映画撮ってる途中も怒ってたけどさ、撮り終えた今だって怒りが収まらない。

そもそも、初めはこんな映画オレは撮りたくなかったんだよ。

これは『XXXX』のリメイクだけどさ、オレは今までリメイクなんて撮ったことなかったんだから。

だから批評家連中の反応に一番びっくりしてるのはこのオレさ。

この映画を撮ったおかげで、昔のB級映画からいろいろ学んだよ。新しい発見だったね。」


つまり監督はリメイクなんて冗談じゃねえやいこのオレ様が、ってな気分だったのではないだろうか。

(その割には、お次は黒澤作品のリメイクをやるとかって噂があるけど。隣のスター君が三船だそうだ)
それまでのインタビューにも、気乗りしなかったけど脚本が良かったからだとか、
俳優たちと練ってるうちに結果的にこういう作品になったんだとか、
リメイク元は観てない、脚本読んだだけだとかさんざん云ってたし。
音楽に関しても「わざわざスコアなんて用意するもんじゃねえやい、大仰な」的なことを話しておられた。

おいおい監督、アンタ映画の宣伝のためにわざわざ自家用ジェットだかで来日したんじゃないのかい。

隣のスターみたいに「いい映画だからみんな観てくれよ!」

って笑顔振りまいときゃいいんじゃないのかい。

などと苦笑しつつも、売れたということに慢心せず、

あくまで自分の造りたい作品に固執しているクリエイターとしての監督の姿に感動すら覚えた。

今回は結果的に大衆に迎合しちゃった自分に腹立ててるんだろうな、と解釈。

・・・まぁ、金も地位も手に入れた巨匠だからこそ、こんな偉そうなこと言ってられるんでしょうけどねえ


もちろん、以上はすべてカットして記事には載せてません。


ちなみにデジタルレコーダーというのは、会場によってはなかなかクリアに録音できない。
そういう場合、記事に起こす際は何度も繰り返し通訳の話しを聴くことになる。
そのくぐもった録音の中で、かの大スターの声だけが、非常にクリアに録音されていた。
さすがは俳優だな、いい声だなあ、と感心。

しかし英語だからねえ。
この英語を訳すのと、通訳の声をがんばって聞くの、

いずれにしても記事にするのにかかる苦労は変わらないんだよね。