さて、フランス入国。
たったの4分、一キロぐらいの話なのに入国した瞬間にパッとフランスになる。
町の人の顔もとたんにフランス顔になる。
該当のバス停はすぐ駅の横にあった。接続もそんなに悪くない。目の前にサンドイッチショップがあったのでジャンボン・フロマージュが半分割りのバゲットに乗ったのを頼む。
フツーに旨い。最初にouiをsiと言った以外は意外とすぐに順応できた。pomme fritsと飲み物で6.70ユーロ。
さて、バスが来た。何となく観光バス仕様。なんとサン・ジャン・ド・リュスまで1ユーロ!オンダリビアからイルンの路線バスが1.40ユーロ、Euskotrenが1.50なので何と片道交通費3.90ユーロ、390円! 明日のアンダイまでの帰り道リハーサルも完璧になった。これで迷うことなく一発で帰れる。
先程の日記の注※1事件はここ笑 運転手の「ネーちゃん」はオレの粗相にも平気な顔して「ムッシュー、領収書~」と。すまぬマドモワゼル…
まあ、バスは発車するとどんどん丘を上がっていく。遠くに見えるのはピレネーの山々かな。その丘の風景が素晴らしく、オンダリビアを出たときには曇り空に少し青空が見えるか見えないかの所が、どんどん雲が晴れて青空が半分以上になってきた。これはシブールとのドラマチックな出逢いが演出されるのか、とワクワクしてきた。これが前の日記の注※2。
まあその前にこの丘の景色がとにかく最高でUrruneのバス停はまた小ぢんまりとしたいい味出している町とよさげなレストランやカフェのある素敵な町だった。
もうこの時点で一目惚れした女性に会いに行くような躍動感がある


そして丘を下り、しばらくしてシブールへ。サン・ジャン・ド・リュスとは隣同士。
運河が見えてくる。橋を渡るその時に左手に見覚えのある建物が。
Monsieur Maurice Ravelの生家だ…
あったあった。バスはそのまま進み、SNCFの駅を少し越えた所で停車。そして回りの景色、建物が本当に美しく、しかも雲一つない澄みきった青空…


あぁ、最高。C'est tres magnifique!!
直接ラヴェルの家に行かずに近辺を少し散歩する事にした。その途中で運河の写真を何枚も撮った。
ラヴェルはこんな美しいところで生まれたのか…
そして幼少期のラヴェルはよく海を見たという。パリに一家が引っ越したあとも度々こちらには来ていたという。スペイン系バスク人の母のDNAもきっとあるだろう。母が亡くなった後にはあまり作品を残していない。クープラン、ボレロ、ヴァイオリンソナタ、二曲のPコン、あとちょいぐらいである。
その想いは如何に。
そしてラヴェルの生家へ。今は一階がシブールの観光案内所になっている。
しばし感慨に浸る。
自分に取って自分の人生が彼の作品を通して自然に投影出来、自分の魂の波長と音楽の波長が共鳴する作曲家の一人、ラヴェル。
その彼の吸っていた町の空気を自分でも感じたい、ていう他人からしたら「バカか?」というような動機。
満たされた。こんな幸せはなかなかないよ。
ラヴェルの家を過ぎてさらに海に向かって歩き続ける。潮風を頬で感じるのが心を揺さぶる。歩きながら頭のなかで流れてくるのはクープランのメヌエットと洋上の小舟、ピアノ協奏曲の二楽章だった。
特にUne barque sur l'ocean(洋上の小舟)は強烈だった。大西洋の波は思ったより強く打ち寄せ、白い飛沫が立つ。町の情景、陽射し、風の音、匂いがあの冒頭のエスプリを鮮明に映し出す…ああ!!!!魂が震える…
波打ち際に腰掛け、曲のスケッチを書く。今は全部書かない。でもこれだけ書いておけば思い出せる。
それからしばらくして車道沿いに丘を上がっていく。すると海に向かって銅像が立っている。海の安全を祈ってのものだろうか。その先に高台へ続く階段があり、その上にベンチがいくつかある。
階段を上がってベンチに腰かけたときに眼下に広がるパノラマの景色は強烈に焼き付いて忘れられない。こんなに美しい風景…
自分の人生で見た数々の素晴らしい景色の中でも最も美しい景色の一つだった。
インスピレーションのパワーもあるのだと思う。
しかしオレは必ず戻ってくると心に決めた。
感慨に浸りながら丘を下りていくが、携帯はさっき海で電池が切れたので時間が分からない。一番いい写真が取れなかった。でもあの景色は自分の目で見ないと分からないさ。「わ~、キレイ」ていうものじゃない。
停車中の警官に訊いた。
まだそんな時間か。
バス停に行ったが接続が悪い。そこにはいわゆる西洋風ギャル系な田舎な女の子達が声を掛けてくる。
わかんねーんだ、わりーな、て言うと「オー、ソーリー」とか言った笑
SNCFの駅で電車の接続を見る。お、結構いい。「16時14分のアンダイ行きの電車の切符一枚」と文法ムチャクチャフランス語で言ったらフツーに通じる。ただ、オレは到着時刻の掲示板を見ていたからおばちゃんが「発車は29分よ、パスがあればチケットいらないわ」と。
タダすか?笑
駅ではボルドー行きの電車を持つクソガキたちがわいわいやんちゃしてたがなんか微笑ましい。エレベーターのドアが壊れて閉じ込められていたのを自力でドアこじあけちまうし笑 まあ駅員ものどかなもので。
帰り道はEuskotrenの1.50とイルンからオンダリビアまでのバス1.40、合計2.90ユーロ。つまり往復交通費6.80ユーロ。680円。
メチャクチャ文法で文が繋がるようになればオプションが広がり、また場内放送で正しい文法もわかる。「セイズァーヴァンヌフ」お、合ってる、とかね。
そして列車が来た。Terだ。駅を出るときにラヴェルの家が右手に見えた。さよなら、シブール…
列車からの景色もいいね。
アンダイに着く。
アンダイでEuskotrenの切符買うと何故か一枚分で二枚出てきた。フランス語で駅員に言ったらスペイン語で応対された笑
ま、いいや。イルンに無事付き、オンダリビア行きバスの接続もバッチリで宿に問題なく着いた。
今はまだ旅の余韻を噛み締めているところ。
朝マッピのバズィングを始めた。吹けないのもなんだからね。明日も出発前にバズィングだ。
さあ、明日からパリ。このヨーロッパの旅の最終目的地だ。
自分の魂の為に本当にいいタイミングの旅だった。


