「彼氏できた?」 | 1.5人称の恋

1.5人称の恋

私たちの時間は、いつのまにか25年になった。
絡んだ小指くらいでつながる遠距離の婚外恋愛は、焦がれすぎても続かない

久しぶり、の懐かしい空間は相変わらずで。
そこには昔の私のような学生さんがいて、なじんだ人たちの笑顔があふれていた。

 

 

「いらっしゃい。来たね」

 

思い出話や近況報告の波は数人の先生方に囲まれて過ぎていく。

 

先生は話の中に積極的に加わることなく、記憶のままにいつものように、黙々と仕事をしながら、それでも時折こちらの様子を見て、話を聞いているのはわかった。

 

話しかけたいような、話したくないような。
話しかけられたくないような、何か言って欲しいような、そんな時間。

 

 


 

「まっちゃん、この間入った新しい装置sanaちゃんに見せてあげたら?あ、でももう興味無いか」

 

部門長が急に話を振った。

 

「見てみる?」

 

「はい、見たいです」

 

「部屋が無くてね。休憩室だったところに置くようになったのよ、行ってみてごらん。すぐ行くから」

 

 

 

ここの間取りなど、目をつぶっていたってわかる。

 

 

 

そこにはやっぱり無造作に色々な物が置かれていて。

ここで過ごした時間をリアルに思い出させるには十分で。この数年のことなど何もなかったかのような気になってしまう。

 

 

 

 

 

「・・・・どう、彼氏できた?」

 

響いた低い声。

ふわりとした過去の思い出に酔っていた私を、その声は一気に現実に引き戻した。

 

 

「えっ?」

 

 

「やっと買ってもらったのよ、これ」

 

背後から聞こえた声は勘違いだったかと思うように話をすり替えて、先生はその装置の説明を始めた。
導入の検討を始める、とたしか卒業の頃に話が上がっていた。

 

隣で話をする先生の声に意識を集中させる。記憶のままに淡々と、でも楽しそうな説明を聞く。

 

 

「で。彼氏はできた?」

 

 

「えっ?」

 

 

思わず見上げる。

ここに来て、恥ずかしくて覗き見しか出来なかった目を先生に向ける。かちりと噛み合う視線。

ドキドキが跳ね上がる。思わず目をそらした。

 

 

 

「いえ、えっと・・・別れました」

 

 

結局ごまかせやしない。本当のことが口をつく。

 

「あらあら、そう。じゃ今は?」

 

私の勢いに三日月の目がゆるんだ。

 

 

 

「いません」

いたら・・・そんな状態で会いに来るわけが無い。

 

 

 

「今日、この後はどんな予定?」

 

 

「ええっ?」

 

 

「声が大きい。驚きすぎ、向こうに聞こえるよ。・・・時間はある?」

 

 

ほんの1時間。顔を見るだけの予定で。

あとは、街へ出て買い物でもして・・・まさか誘いがあるなんて思ってもいなかった。

謝恩会の時のままに、おろおろと見上げてしまう。

嬉しさよりも戸惑いと、読めない先生の表情にドキドキする。

 

えっと・・・ちょっと待ってえっと・・・。

 

そんな気配すらもう想定内だというような強引さで先生は続けた。

否定などあるわけがないという気配に、ためらいと、隠し切れない喜びもこみ上げてくる。

 

いいの?先生。

 

 

「前に待ち合わせした場所、覚えてる? 業務終わりに待ってて。電話する。変わってないよね電話番号」

 

「電話番号・・・変わってないです」

 

知っているけど、繋げたことのない番号。

何度もお守り代わりに眺めていた、その番号。

先生は私の番号をここで再確認もしない。するまでもない、携帯の中に私の番号が入っているのは当たり前で把握済みだとでもいうように。

 

 

「久しぶりにご飯でも行こうか、待ってて。じゃ後で」

 

 

 

 

説明は終わった、とでも言うかのような表情で先生はくるりと踵を返し部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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