$【夏の秘密】勝手にFanブログ

【↑父と娘婿】
高広さんにとって乾龍一は最高の娘婿だったと思うんです。
弁護士で教養も有り、性格も容姿も完璧。
非の打ち所の無い男。
誰だって大事な娘を他の男に渡したくは無いだろうけど。
でも、渡さなければならないとしたら...やはり、最高の相手を望む物でしょう。
でも、現実は。

妻を奪った....かつての恋敵:瀬田伊久馬の息子:瀬田伊織。
高広は彼の妹を手にかけ。
彼の母は自分の妻を冷たい海へ突き落とし...死なせた。
高広にとって瀬田伊織は最も娘婿に相応しく無い男だと思うのですが。

理想と現実。
愛と憎しみを乗り越えて。
瀬田家と羽村家は許し合い繋がって行けると信じています。


※注:以下は私が勝手に書いてる妄想であり「夏の秘密」とは一切関係ありません。
夏の秘密のその後...の妄想ですが何の根拠も無い事をお断りしておきます。
二次創作を好まれない方はご覧にならない事をお薦め致します。
文章の保存、流用、転載は禁止させて頂きます。

「納豆の秘密」は66話から始まる変則あらすじです。
65話までは存在しませんのでご了承下さい。


【納豆の秘密】158話 伝通院 洸の馬鹿

「傷は深いが奇麗に切れてるな。犯人に感謝...って所か。」
パックリと開いた手の甲を持ち上げ至近距離から眺めながら心底嬉しそうにほくそ笑む伝通院。
「.............................................。」
出血で汚れた衣類を病院着に着替えさせられ処置室の机を挟んで伝通院と向かい合う犬山。
「なんで刃物で切られて犯人に感謝なんだよ....。」
犬山の後ろで見守ってる仁が思わず口を挟む。
「すっぱり切れてるから元取りに繋ぐのも簡単なんだ。これがズタボロだったら腱の長さが足りなくなる。」
「........................っっっ!!!」
切り口から白く見えている骨や腱をピンセットで突つかれ思わずうめき声を上げる犬山。
「...まさと....。」
不安げに犬山の肩に手をかける杏子。
「....................傷の大きさにしては随分顔色が悪いが...。怪我をしてから走ったりした?」
問いかけに小さく頷く血の気の引いた顔に冷や汗が伝う。
「..............ふむ。..........輸血パックを開けるのも勿体ないし...。」
患部を離し、白衣の腕を組みしばし思案顔の伝通院を「何でもいいから早くしてやってくれよ!」と急かす仁。
「.........君は諏訪さんとは結婚の約束をしているのかな?」
「.............................................。」
目の前の天才外科医の質問が飲み下せないが...........失血が酷い事と関係有るのだろうか。
犬山の不安を察して杏子が変わりに質問する。
「あの。それが何か?」
「夫婦ってのは全ての財産が共有だそうだから。結婚が決まってるなら諏訪さんの血を少しこっちに移してみた所で合算としての全体量は変わらない計算なんじゃ...と思ったり....。幸い、血液型も一緒だ。君も誰のか分からない血液を入れられるよりは正体が明らかな方がいいだろ?頭の良い人間の血を輸血すると瞬間的に頭が良くなる可能性もある.......かも知れない。」
..............早い話、杏子さんの血を採って俺に輸血しようとしてる!?
貧血のせいもあるが...あまりにも適当な思い付き発言に目の前が真っ暗になる。
杏子さんの身体に針を刺すくらいなら、誰のか分からない血で充分だ。
犬でも猫でもすっぽんでも何の血でもいい.......でも、杏子さんに傷を付けるのだけは...............!!
「やめて下さい!!」思わず叫ぶ声に重なる杏子の声。
「私の血を使って下さい!!.........私で役に立つなら....いくらでも使って下さい。」
「..............杏子さん........。」
肩に乗せられた杏子の手から熱く伝わる決意。
「よし。話は決まった。では、二人とも隣のベッドに横になって。心配しなくても、もう一度ピアノを弾ける様にしてやる.............伝通院の名にかけて。」
巨大な手を打ち合せながら豪快に立ち上がる伝通院に「..........元々ピアノは弾けません......」と言いかける犬山の声は届かない。
ヴゥン.........。
処置室入り口のカゴに畳んでおかれた犬山の血で汚れた衣類。
その中に埋もれて唸る携帯の存在に気付く筈も無い四人。

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「...............出ない...............。」
寝てるのか.............そうだ、きっと眠ってるんだ。
想像したくは無いが.....杏子さんが一緒だったんだから....きっと今頃は二人で一つ布団にくるまって熟睡してて。
だから、携帯に出ない。
そう思いたい。
でも、そうじゃない...............苦い予感が沸き起こる。
..........きっと、このサイレンはあの二人..............。

「...............どうしたの?」
ただならぬ雰囲気に目を覚ました紀保の手が伊織の肩にかかる。
手の中の黒い携帯に目を移し「.......杏子に何かあったの?」と声を潜める。
「いや。何だか表が騒がしくて。どうやらパトカーが近所に来てるらしい。....気になって犬山さんに電話してみたんだけど...出ない。」
伊織の言葉通り、紀保の耳にもハッキリと聞こえる表の騒音。
「行ってみましょう!!」
枕元に散らばった衣類をかき集め手早く身に付ける紀保。
伊織も慌ててTシャツに袖を通す。

早朝7時前だというのに加賀診療所前に人垣が出来ている。
診療所の古びた扉にも、扉に続く路地にも点々と血の跡が続いている。
人垣の最前列に雄介、フキ...そして護の姿も見える。
「雄介!!.............何があった!?」
背後からかかる声に振り向く雄介。
「あ、伊織さん。何だか酒屋で強盗事件が有ったらしくて....。犬山が怪我をしたとか....。今、先生の所に警察が来てる。」
「杏子は!?........杏子は何処に居るの!?」
紀保が興奮して雄介の腕を掴む。
「.............それが............。」

「じゃあ、何かあったら病院に連絡下さい。」
診療所の戸口に現れ、中に声をかける皺だらけのスーツ姿。
「豪!!」
人垣の中から旧友を呼ぶ伊織の声。
「.......伊織....紀保さん。..............諏訪さんなら被害者に付き添って病院へ行ってる。」
大股に駆け寄って口早に状況を説明する神谷刑事。
「杏子は...無事なんですか?」
不安に震える紀保の問いに「怪我をしたのは酒屋従業員の男性だけです。自分も仁と誠と一緒に駆けつけて本人達に逢いました。....犯人が未だ逃走中なので所轄と合同で誘拐事件との関連については捜査中ですが。今から諏訪さんと被害者の事情を訊きに病院に向かいます」と報告する。
「俺達もすぐ行く。何処の病院?」
気持ちは焦るが...紀保も自分も寝起きのままで車のキーも持ってない。
一旦帰って出直す為に搬送先を訊ねる伊織。
「伝通院総合病院。怪我は手だけらしいが。腱が切れてるとかでかなり難しいとかなんとか...。診療所の医者が洸を指名したって仁が言ってた。だから、すぐに行っても処置中で逢えないだろう。心配なのは分かるが...慌てても仕方ない。」
不安げな紀保の肩を軽く叩いて「大丈夫ですから。諏訪さんからの連絡を待って下さい」と優しく諭す。
「じゃ。」
表通りに横付けされたパトカーに向かって駆け出して行く豪の後ろ姿を不安げに見送る二人。

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「ここでいいか...........?」
海辺の道をひた走り、海に降りられそうな脇道に車を進める誠が問う。
助手席で相変わらず涙を零しながら小さな香水の瓶を握りしめている愛。
「..............それ.......昨日の.........。」
高級ブランドの瓶にマジックでびっしりと書かれた文字。
その中に自分の署名も有る事を誠は知っている。
昨日、酒の席で盛り上がって皆で落書きした蘭から愛へのアメリカ土産。
「...........浜まで降りて.......。」
鼻の詰まった愛の声。
「................浜までって......これ、俺の車じゃないから........。」
それに、浜へ降りる道の真ん中には車止めポールが立っている。
つまり、ここで行き止まり。
仕方なくポールの手前に車を止めようとブレーキに足をかける誠の手がぐいと引かれる。
「......え!?」
間髪入れず二人を襲う衝撃。
奥歯に響く衝突音の後、静寂に包まれる車内。
「.............................................。」
精神的ショックが酷過ぎて何故か笑い出しそうになる。
...............思いっきりぶつけたな...........。
フロントガラスの向こうを見るのが怖い。
ハンドルの上に額を押し付け、シートベルトが食い込んで痛む肩を手で探る。
「愛........大丈夫か?」
眉をしかめ助手席を見ると...........そこに愛の姿はない。
「.........................!?」
開け放った助手席の扉の向こうに広がる夏の海。
キラキラと陽光を跳ね返す波に向かって砂浜を駈けて行く愛の背中。
ベージュのパンツスーツの裾を濡らして海の中に脚を踏み入れて行く。
「............................ちょっと待てよ!!」
まさか..........死ぬ気じゃ...........!!
動転し過ぎて震える手でシートベルトをむしり取り、車を飛び出す誠。
全速力で砂浜を駆け抜け、膝まで波に洗われる愛の背中を抱き停める。
「馬鹿っっっ!!!何やってんだ!!!!..................愛っっ!!」
羽交い締めにする誠の腕を振りほどこうと愛ももがく。
「離してよっ!!!誠には関係ないでしょ!!!」
愛の涙が飛び散って海に還って行く。
潮風に真っすぐな髪をなびかせ叫び声を上げ続ける愛の頬を打つ誠の手。
「...........いいか!?よく聞けっ!!..................関係ない訳無いだろ!?俺達は家族以上の絆で結ばれてて。俺にとって...お前は本当の妹以上の存在なんだぞ!!俺だけじゃない、全員にとって、お前は一番大事な末っ子なんだ!!」
細い両肩を強く掴み揺さぶる誠の手にも熱い涙が落ちる。
「..........違う.........妹なんかじゃない。ただの看護師でもない。魚住君でもない。.........私..........私はっ!!」
手を振りほどこうとする愛の叫びが海風に散らされる。
「..............分かった。お前の気持ちは分かったから。.......でも、俺や仁や豪が思ってる様に.......洸もお前の事は妹として見てるんだと思う。12人の中で最年長の洸と最年少の愛が男女の関係になれるとは.............俺も思えない。歳の差だけじゃなくて。やっぱり兄と妹なんだよ。家族なんだ。」
「家族じゃない!!妹でもない!!..........私は29歳の女で先生は40歳の男で.........私は先生を.......愛してる。」
「お前がいくら想っても洸に届かない事はこの12年で分かった筈だ。もう、傷付くのは終りにしろよ。........女は愛するより愛される方が幸せだって蘭も言ってた。俺もそう思う。.......あんな男をいくら愛したって無駄なんだよっ!!もし、受け入れられたとしてもアイツとの生活に安らぎも癒しもある筈が無い。..........愛、辰平の気持ちに応えてやれ。........アイツは子供の頃からずっとお前を想って生きてる。今も誰よりもお前を愛してくれてる。洸なんかよりずっとずっとお前を幸せにしてくれる!!...............愛。洸の事なんか忘れるんだ。辰平と幸せになれ。」
これは俺だけの意見じゃない。
全員の総意だ。
愛の父親....和久井博士だって共同研究者としては伝通院 洸を高く評価しているが、結婚相手としては許す筈が無い。
最愛の愛娘をみすみす不幸にする父親がどこに居る!?
愛が......洸を想っていると知ったら、間違いなく反対するだろう。
.....洸自身だってそうだ。
アイツも愛が辰平の気持ちを受け入れて幸せになる事を望んでいる。
自分が性格破綻者である自覚が有るかどうかは別にして....愛を幸せにする気が無いから12年も好意に気付かないフリを続けているんだとしか思えない。
残念ながらこの恋は最初から破綻してる。
成就する筈が無い。
「.............だから..........愛。」
俯き黙りこんだ愛の顔を正面から見つめ、優しく言葉をかける。
「お前はよく頑張った....だから。もう、楽になろう.......。」
病院なんか辞めたっていい。
イルカの調教師の稼ぎで夫婦二人が食べて行けるかどうかよく分からないけど、きっと、辰平との生活は安らぎに満ちている。
俺、愛、辰平.......水組の三人。
どこか湿っぽくて、他人に気持ちを打ち明けない水臭い性格もよく似ている。
所詮、つむじ風の様に好き放題に吹き過ぎて行く伝通院 洸とは噛み合う筈も無い。
................な?..........愛.............。
訴えかける鳶色の瞳。
その透き通る白い頬をフルスゥイングで撃ち抜く愛の拳。
「.............................................!?」
受け身も取れず波間に倒れ込む誠に炸裂する愛の怒り。
「勝手な事言わないでっっっっ!!!!何が"辰平と幸せになれ"よっっっ!!!!!馬鹿にしないで!!!!先生じゃないなら一緒になる意味なんか無い!!!」
ずぶ濡れになった誠の目の前で両足を踏みしめ「伝通院 洸の馬鹿ぁぁぁぁー!!!!!!」と再び号泣を始める愛。

海水に腰まで浸ってぽかんと見上げていた誠もいつしか吹っ切れた様に立ち上がる。
「伝通院洸の馬鹿ぁぁぁぁー!!!!!!」
魂を振り絞る叫びが海を揺らす。
.............しょうがない...................とことん付き合ってやるか.............。
覚悟を決めた誠も濡れた腰に両手を当て思いっきり背を反らす。
「伝通院 洸のーっっ!!!!!!!!!!!!馬鹿ぁぁぁぁっっーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
二人の雄叫びが朝日の海を渡って白い飛沫を巻き上げて行く。

ペタしてね