トニー賞。アメリカ最大の(世界最大の、と言ってもいい)演劇賞である。第1回は1947年というから、その歴史は古い。アカデミー賞、グラミー賞、エミー賞と並んでそのセレモニーは、アメリカ・ショウ・ビズ界の名だたる年中行事のひとつでもある。

 

 去る3月18日、東京国際フォーラム/ホールAで、そのトニー賞を冠に掲げた〝歌の饗宴〟がおこなわれた。名づけて「トニー賞コンサートIN TOKYO」(主催WOWOW)。トニー賞を看板にするとはうまい手を思いついたものだ。アメリカ以外では初の試みだという。タイトル料、かなりしたかな?

 

 出演者はアメリカからケリー・オハラ(トニー賞受賞者)、マシュー・モリソン(同ノミニー)、日本から井上芳雄、濱田めぐみである。和気あいあいのうちにも、4人の間に熱気と緊張感があふれ、満員の会場は弥が上にも盛り上がった。

 

 プログラムには当然ながらベスト・ミュージカルの受賞作、候補作の有名ナンバーがずらりと並ぶ。煩わしいので曲名は省き、主な作品名のみ記す。

 

 『マイ・フェア・レディ』『ウエスト・サイド・ストーリー』『サウンド・オブ・ミュージック』『レ・ミゼラブル』『オペラ座の怪人』『ライオンキング』。

 

 これらすべて日本語上演されている作品ばかりで、私たちにもなじみ深い。してみると日本はなかなかの〝ミュージカル大国〟ということになるのではないか。

 

 ケリー・オハラの美声が一頭地抜きん出ていた。しかも彼女には自らの美声に酔うという風情がまったくない。たとえば『回転木馬』の「イフ・アイ・ラヴド・ユー」。もともと希に見る美しい恋の歌だが、ケリーが歌うとその美しさがより輝きを増す。恋するヒロインの胸の鼓動が伝わって来るような錯覚さえ覚える。

 

 マシュー・モリソンは、ブロードウェイだけでなくテレビ番組『glee/グリー』のシュー先生役として人気が高い。ただの二枚目ではなく芸がある。彼もキャストの一員だった『ヘアスプレー』をわずか8分に凝縮し、ひとりで演じてみせるというアクトが見ものだった。

 

 日本勢もよく頑張った。とくに井上は、マシューと四つに組んだ『シティ・オブ・エンジェルズ』で新境地を切り拓いた。コンサートにもかかわらず、ただ曲を歌うだけではなく役柄まできちんと演じてみせたのは偉い(ちなみに井上の役はハリウッドのハードボイルド作家、マシューの役は彼が創造した私立探偵)。

 

 濱田は『ファニー・ガール』『エビータ』で歌唱力をフルに発揮した。

 

 この催し、是非来年もやって欲しい。

 

(オリジナル コンフィデンス  2017 4/28号 コラムBIRD’S EYEより転載)

 

ブロードウェイの実力を発揮したケリーとマシューのふたり。
当日のプログラムより。