「バック・トゥ・ブルックリン」を繰り返し聴きながら、実は私はかなりの欲求不満に落ち入っていた。なるほどバーブラ・ストライサンドの歌いぶりはポピュラー歌手の頂点を極めている。それはライブ録音によるアルバムでも十分にわかる。でもコンサートの客席にいたら、感動はもっと高まったのでは・・・・・という叶わぬ願ににとり憑かれたからだ。

 幸いアメリカではこのブルックリンでのコンサートがDVD化されていることがわかったので、早速とり寄せてみた。Amazon 【DVD+CD】Back To Brooklyn/バーブラ・ストライサンド

 映像とは言え、Seeing is believing! バーブラの若々しく美しいこと。とくに白い肌が輝くばかりだ。

 歌詞の一節、一句を噛みしめるように歌っている。しかも、その噛みしめるように歌うという行為が、顔に浮んでは消え、消えては浮ぶ表情とごく自然に一致している。オーヴァーアクションの歌手ではない。ほどのよいジェスチャアのみ。しかし、揺るぎない存在感がある。

 彼女の場合、その存在感が重苦しくなり過ぎないのは、自らが誇るブルックリン生まれ、ユダヤ系ならではのユーモアとウィット、つまり上質の軽みが、語りの部分でよき中和剤として働くからだろう。地元ブルックリンの人々がバーブラの過去、現在をもろもろあげつらう場面で、彼女の有名な鼻の話題も出て来るが、こういう個所をカットせず、あえて残すあたりが、彼女のユーモアのセンス、余裕から生じる愛嬌である(この部分はCDにもあるが、DVDだとコメントする人も映っていて、ぐっとリアリティーが増す)。

 映像でまず確認出来たのはステージの構造である。舞台前面に大きなオーケストラ・ピット、それを真ん中で二分するかたちで花道?が設けられている。その花道の突っ先あたりが、彼女の主たるアクティング・エリアである。オケピットとの間には手すりがある。ショウの最中、彼女はしばしばその手すりにつかまっていた。そばに置かれた椅子にすわって歌ったりお喋りしたりという場面も、しばしば見られた。

 寄る年波には勝てない?いやいや、よたよたした風情は皆無でしたよ。

 ドレスは前半が黒のパンツスーツ。パンツには長いスリットが開いていて、スレンダーな足がちらちら露出する。後半は赤のロングドレス。ふたつのドレスがさり気なく協調するのは、バーブラの誇る永遠の若さである。

 ゲストとのからみはCDよりDVDのほうが何倍か楽しい。イタリアの若手三人組イル・ヴォーロとの年齢差もひと目でわかる。彼等はそれぞれ17歳、18歳、19歳だという。トランペット奏者クリス・ボッティとの共演も、なるほど付かず離れずのこういう位置関係だったのかと納得がいった。

 ただし息子のジェイソン・グールドとの二重唱「愛は海よりも深く」はいかがなものか。ジェイソン君に母親のようなオーラがあるはずもないから、この親子共演は、どうしてもバーブラの親馬鹿に見えてしまうのですよ。

 CDとDVDとでは、同じコンサートにのっとっているわけだから大半の曲目はほぼ変わらないものの、DVDにしか収録されていない曲もある。そのひとつが、亡きドナ・サマーを偲んで歌う「ノー・モア・ティアーズ(イナフ・イズ・イナフ)」だが、これがまた絶品と来ている。

 そもそもバーブラがこの曲をドナとレコーディングしたのは、1979年のことである。“ディスコの女王”とバーブラは一見似つかわしくなさそうだが、ちゃんとなり立たせてしまう。守備範囲の広いバーブラなればこそ。

 フィナーレの楽しさは、やはりCDよりDVDのほうが体得出来る。とりわけイル・ヴォーロ、クリス・ボッティらゲストが全員参加しての「メイク・アワ・ガーデン・グロウ」は、音楽的にも視覚的にも盛り上がりを見せる。圧巻と言うほかない。

 このDVDには、花も実もあるエンターテイナーのすべてが、ぎゅう詰めに詰め込まれています。

バーブラ&ドナのオリジナル共演盤です。私の秘蔵盤の1枚。
当時の定価 金1,000円也。


楽屋と歌うバーブラ(アルバムより)。