「僕を完全にしてくれる仲間」 2013.11

 

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ライバル(Rival)は、

日本語では、

同等もしくはそれ以上の実力を持つ競争相手。

互いに相手の力量を認め合った競争相手。

の意味を持つ。

しかし時に日本語では好敵手(こうてきしゅ)宿敵(しゅくてき)と和訳されることがある。

観る側にはわからない競技者同士の濃密な時間がライバルの激突にはあるという。

それはきっと、

観る側には勝ち負けを超えた心を動かすものとして伝わって来るんだ。

 

スポーツを通じて何かを追求する者にとって、

ライバルとは「僕を完全にしてくれる仲間」と訳せるのだろう。

 

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君が僕を完全にする  武智幸徳  

 今年のテニスの全豪オープンでラファエル・ナダルがロジャー・フェデラーをストレートで粉砕した準決勝には驚かされた。全盛期の輝きを取り戻したかに見えたフェデラーにも少しは勝機があると思ったからだ。

 

 いざ試合が始まると、7―6と競り合った第1セット以外はナダルの完勝。フェデラーより弱そうな相手には苦戦しながら長年のライバルと対峙するや激しく燃焼する。そんなナダルを見ながら「ザ・エージェント」という映画の中で主役を演じたトム・クルーズが発した「You complete me」(君が僕を完全にする)という求愛のセリフを思い出した。フェデラーという唯一無二の存在がナダルをより完全に近づけたのだなと。

 ソチ冬季五輪がいよいよ始まる。こちらにも「フェデラーとナダル」のような関係があちらこちらにありそうだ。フィギュアスケートの浅田真央に金妍児(韓国)、羽生結弦にパトリック・チャン(カナダ)、ノルディックスキー・ジャンプの高梨沙羅にサラ・ヘンドリクソン(米国)といったライバルがいる。

 ファン心理としてはそういう競争相手が正直、目の上のたんこぶに思えなくもない。演技や試技が始まると「着地に失敗しないかな」「失速しないかな」というよこしまな感情も湧く。当事者同士はどうだろう。相手のミスで転がり込む栄光などまったく望んでいないのがトップアスリートの矜持(きんじ)というものではないだろうか。

 金メダルに挑むレベルの選手にとってライバルとはもっとポジティブなもの。自分を過酷な練習へと駆り立て、試合になれば火花を散らす存在。スポーツの世界で完全な試合や演技などあり得ないから、その時点でのそれぞれの最高をぶつけ合えれば、たまさかメダルの色に違いが出ても悔いはない。そんな考えを共有できる数少ない仲間という例もあるだろう。

 リングやコート上で戦いながら2人だけの濃密な時を過ごす競技と違って、第三者の手が入る採点競技は「良き敗者」になりにくい面はある。ライバルの間には屈折や嫉妬などその折々でさまざまな感情が渦巻くことも確か。しかしライバルを宿敵と訳し「バンクーバーのかたきをソチで討つ」みたいな話にすべて集約させるのも、もったいないと思うのである。