心揺さぶられる詩に出会いました。

命は(病も老いも)
決して哀しく儚いものではなく、
力強く逞しい、と思いました。
そして、
こんな所でも、どんな所でも、
命の花は美しい、と思いました。

ご本人の承諾が得られましたので転載させて戴きます。





「こんな所」
           藤川幸之助


始終口を開けヨダレを垂れ流し

息子におしめを替えられる身体の動かない母親。

大声を出して娘をしかりつけ

拳で殴りつける呆けた父親。

行く場所も帰る場所も忘れ去って

延々と歩き続ける老女。

鏡に向かって叫び続け

しまいには自分の顔におこりツバを吐きかける男。

うろつき他人の病室に入り、

しかられ子供のようにビクビクして、うなだれる老人。

父が入院したので、

認知症の母を病院の隣にある施設に連れて行った。

「こんな所」へ母を入れるのかと思った。

そう思ってもどうしてやることもできず

母をおいて帰った。

兄と私が帰ろうとすると

いっしょに帰るものだと思っていて

施設の人の静止を振り切って

出口まで私たちといっしょに歩いた。

施設の人の静止をどうしても振り切ろうとする母は

数人の施設の人に連れて
行かれ
私たち家族は別れた。

こんな中で母は今日は眠ることができるのか。

こんな中で母は大丈夫か。

とめどなく涙が流れた。

月のきれいな夜だった。

真っ黒い自分の影をじっと見つめた。

それから母にも私にも時は流れ

母は始終口を開けヨダレを垂れ流し

息子におしめを替えられ

大声を出し

行く場所も帰る場所も忘れ去って延々と歩き続け

鏡に向かって叫びはしなかったが

うろつき他人の病室に入り

しかられ子供のようにうなだれもした。

「こんな所」と思った私も

同じ情景を母の中に見ながら

「こんな母」なんて決して思わなくなった。

「こんな所」を見ても

今は決して奇妙には見えない

お年寄り達の必死に生きる姿に見える。

※
『まなざしかいご』(中央法規出版)を改行、加筆。(藤川幸之助/20130823)







まなざしかいご 認知症の母と 言葉をこえて 向かいあうとき
http://www.chuohoki.co.jp/products/welfare/3346/
$苺畑こぼれ話(介護生活エトセトラ)


藤川幸之助
$苺畑こぼれ話(介護生活エトセトラ)

詩人、児童文学作家。認知症の母の世界を描いて、十数年。介護も終わり、そろそろ時々気軽に書いてみようかと。命や認知症について全国各地で講演中。著作に『マザー』『君を失って、言葉が生まれた』(ポプラ社)、『満月の夜、母を施設に置いて』共著・谷川俊太郎 絵・松尾たいこ(中央法規)、『やわらかな まっすぐ』(PHP出版)等多数。

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