俺はS。華の16歳。愛車はGS400。

 

今、俺は鉄剣タローにいる。

 

。まぶしい日差しが窓から差している。

 

素敵な休日の一コマのような光景だが、俺は、うどん男のために鉄剣タローの
自販機で絶賛買い物中だ。

 

前回のお話を読んでいただければわかるのだが、
みの丸とうどん男の関係を探るため、うどん男に自販機フルコースを振る舞うことになった。

 

おまけにひとつひとつが座席から離れているにも関わらず、うどん男は着席し待機している。


買って、そのうえ持って来いということだ。

 

確かに気に入らない。

 

気に入らないが、どうせごちそうするならおいしく食べてほしい。


正直、今は怒りよりもそんな気持ちだ。

 

ここのフルコースをおいしく熱々で食べるにはそれなりに条件がある。


それは「時間差」だ。

 

それぞれ熱々の状態で食べるには、買う順番が大事だ。

 

時間がかかる順番は「チーズバーガー」「トースト」「うどん」だ。

 

この中にホットドリンクが混ざるとかなり複雑なことになるが、
今回の要求は「すっきりトマト」だ。


これは温めて飲むような猛者もいるかもしれないが、基本的には「COLD」で飲むのだ。

 

なので、まずはチーズバーガーの自販機へと向かう。


ふと、うどん男へ視線を移すと、体全体が揺れている。


「待ち遠しい」「早く持って来い」「俺はハラペコなんだ」と背中が語っている。

 

俺は少し早足で、自販機へと向かった。


まず、220円でハンバーガを買う。

 

約1分ほど時間がある。

 

ここで15秒ほど遅れて、隣の隣くらいにあるトーストを買のだ。


これも同じく220円だ。これで大体同時に出てくる。

 

そして、俺は急ぎ足でトースト自販機の前に向かった。

 

俺「!?」

 

トーストを買おうと財布覗いた。

 

俺は自分の財布を見て愕然とした。


100円玉が1枚足りないのだ。

 

これはまずい!すでに25秒ほど経過している。

 

両替機はかなり離れている。


これで、もうベストな状態でフルコースを振る舞うことができなくなってしまった。

 

俺は走って両替機へと向かった。

 

そして、またここでも想定外の事件が起きる。


両替しようと、札入れを見たところ、5千円札しかない!!

 

樋口一葉が澄んだ瞳で俺を見つめている。


いつもならこんな札に印刷された顔など興味わかないが、
今回ばかりはそのクールな顔立ちがより一層俺を苛立たせた。

 

紙幣に憎しみをおぼえたのは生まれて初めてのことだった。

 

鉄剣タローで両替ができるのは500円1,000円だ。


このような大型の紙幣には対応していない。

 

どこまで昭和を追及しているんだろうか!


素晴らしいことではあるが、その「こだわり」のおかげで俺はピンチだ。

 

怒りを押し殺し、器のでかい男を演じていたというのに…。


今にも発狂しそうだった。

 

「チンッ」

 

するとハンバーガの出来上がる音が聞こえた。

 

「ま・・・まずい!!!」

 

俺はハンバーガーしか買えていない。


両替ができなければ金があっても何も買えない。

 

俺は今、まさに、お金があっても欲しい物が手に入らない状態だ。

 

一見裕福で幸せそうな人間が薬物に手を出してしまう気持ちが少しわかった気がする。


金があるのになぜ、こんなにむなしいんだ!とね。


おれも今そんな気持ちだ。

 

だが、悠長に感傷に浸っている時間はない。


とにかく今できることを精いっぱいしようと思った。

 

意を決して振り向くと…。

 

うどん男は既にハンバーガーを口に運んでいた。


そして、ハンバーガーを食べながら、自販機を指差し、催促している。

 

「次のを持って来い」と言わんばかりだ。

 

だが、俺に次の一手はない。

 

買いたくても買えないのだ。


みの丸に借りるという手もあるのだが、好きな女にそんな事口が裂けても言えない。


今までの苦労が水の泡だ。

 

そして、俺はひらめいた。鉄剣タローの近くにはコンビニがある。


俺は走って飛び出しコンビニへと向かった。

 

「はぁ…ハぁ…」

 

GSばかり乗っていたので、近いと思っていたが、走ってみると割とつらかった。


結構みなさん経験があるんではないでしょうか?

 

だが、俺は16歳。

 

この程度はへのへのカッパだ。

 

俺は多少息が切れていたが、急いで小銭を用意しなければならない。


軽く呼吸を整えて、店員へ話かけた。

 

俺「ハぁ・・あの・・ハァ・・両替を…」

 

店員「両替ですか?」

 

俺は呼吸がみだれており、膝に手をあてうつむいていたため、
店員の顔を見ていなかった。

 

そして、その可憐で美しい透き通るような声に「はっ」とし、顔をあげた。

 

俺「!!!????」

 

一瞬俺の勘違いかと思ったが、俺の目の前にいるのはその女一人だ。


ものすごい顔をしている。

 

ボサボサのほとんど手入れされていない、潤い0の毛髪。

 

気持ち、ファンデーションが塗ってあるのだろうか?粉の吹いた顔。

 

クレーターだらけの頬。


前歯もかけていた。

 

顔を上げたことを激しく後悔した。


少し酸欠状態な俺は吐き気をおぼえた。

 

かがんでいると胃液が出そうだったので俺は背筋を伸ばし言った。

 

俺「両替を…。」

 

するとその目の前の「何か」は俺の目線の下を指さしている。

 

【両替お断り】

 

最近ではよく見る札だ。


俺は目の前の「何か」の態度に憤りをおぼえたが、言い争っている時間はない。

 

てっとり早く小銭を手にするには買い物をするしかない状況だ。

 

俺「からあげを3つくれ」

 

俺はファーストフードのからあげを買っていくことにした。


俺とみの丸とうどん男の分だ。

 

これがあれば突然飛び出した説明もできる。


我ながらナイスなアイディアだ。

 

店員「え、5個入りが一番すくないんですけど…」

 

俺は一瞬何を言っているのかわからなかったが、臨機応変な男だ。


すぐに理解した。からあげは一つが「5個入り」なのだ。


つまり、この化け物は俺がからあげを3粒頼んだと思ったのだ。

 

顔も顔ならおつむもてんてんだ。

 

普通はわかるだろう。


だが、この「普通」というのも俺の中でのことであってそれが全員に共通するわけではない。

 

俺「5個入りのからあげを3つください」

 

俺はゆっくり丁寧に幼稚園児でもわかるように説明した。

 

店員「あ、かしこまりました。」

 

女は頬に両手をあて恥ずかしそうにしていた。


仕草も声も顔とかけ離れすぎている。

 

店員「あっ!」

 

からあげを準備している店員が突然声をあげた。

 

店員「すいません、1個おとしちゃいました」

 

これはトラップだ。

 

5個入りを一個落としたのか5個入りの中の一粒を落としたのか。


なかなか狡猾な生き物だ。

 

俺「5個入り一個落としたんですか?それとも一粒?」

 

店員「え?一個ですよ」

 

何を言ってるんだろうと言わんばかりの対応だ。


どうやら一粒を落としたらしい。


本来ならば怒鳴り散らしてやりたいところだが、今はそんな時間はない。

 

俺「そのままで」

 

店員「いいんですか?」

 

このやり取りが俺は非常に嫌いだ。


気に入らないことを最初からこちらが申し出るわけがないだろう。

 

俺「そのままで」

 

店員「すいません。ありがとうございます。」

 

目の前の生物らしきものは少し頬を赤くしていた。


何とも不愉快な気持ちになったので、俺は顔をそむけた。

 

店員「お待たせしました。600円です」

 

俺はにっくき樋口一葉を差しだした。

 

店員「樋口はいりましたーーーーーーー!」

 

俺「!??」

 

突然、店員が叫んだ。


おまけにこのコンビニにほかの店員はいない。

 

店員「4400円のお返しになります。」

 

店員は何事もなかったかのようにつり銭を俺に渡した。


俺は素肌に触れないように慎重に受け取り、すぐに店を出た。

 

店員「ありがとうございまぁあああぁぁああす!」

 

「まぁあああああ」の部分が非常に不愉快であった。


もう、二度と訪れることはないだろう。

 

そして、俺は鉄剣タローへ到着した。


すると、駐輪場には俺のGSとみの丸のRDしか停まっていない。

 

俺が急いで店内に入ると、みの丸がうつむいて座っていた。

 

俺「あの人は・・・?」

 

みの丸「どっかいちゃった…」

 

俺は膝の力が一瞬ぬけそうになったが、よく考えてみれば
みの丸と二人きりだ!これは頑張った俺への褒美にちがいない。


俺は基本プラス思考。

 

俺は人数分買ってきたからあげをみの丸に見せた。

 

俺「食べよっか」

 

みの丸「そうだね」

 

みの丸は少し落ち込んでいるようだったが、薄く笑みを浮かべ答えてくれた。

 

俺「飲み物買ってくるよ!」

 

俺はやっと両替できるようになったので両替機へと向かった。


そして、札入れを見て驚いた。

 

先ほど俺は、5千円札で600円の買い物をしたのに、夏目漱石が3人しかいないのだ。


どうやら樋口一葉を愚弄したバチが当たったようだ…。

 

だが、俺の心は疲れはて、怒りもわいてこなかった。

 

俺は両替を済まし、みの丸に聞いた。

 

俺「何飲む?」

 

みの丸「つぶみで!!」