テテュスは、ファントレイユを見た。
正確には、ファントレイユの居る方向を。
そこは、暗闇だったので。
「大丈夫?」
テテュスが聞くと、ファントレイユのあどけない声が、返って来た。
「平気。テテュスは?」
「僕はどこも、痛めてない」
こんな状況で心細く成っても仕方無いのに、テテュスの声音はとても、しっかりして、ファントレイユは心からテテュスを『頼もしい』と思った。
ふ、と視線を向けると、その先に漏れ出る灯りが、見えた。
「テテュス」
ファントレイユが促すと、テテュスと二人は、その闇の中を、這った。
灯りの洩れる、剥がれ掛けた壁板を引き剥がすと、テテュスやファントレイユら、子供なら通れる程の小さな穴が出来て、二人はそこから這い出した。
まるで、街の路地に入り込んだみたいに、煉瓦の塀に取り囲まれ、月が空に拝めて、二人はその外の狭い道を、歩いてみた。
煉瓦の壁が続き、途中二手に別れたりして、テテュスとファントレイユはもう、本格的に迷うしか無い。と、腹を括るしかない覚悟を、決めなければならなかった。
「・・・どうしよう・・・」
ファントレイユが二つの路地を見つめてつぶやくと、テテュスが月明かりの中、右側の通路の先に、一階は階段で二階に部屋のありそうな、小さな建物を見つけて、促した。
「・・・ともかく、休めそうだと思う」
ファントレイユは、とても美しいと感じる端正なテテュスを見つめて、頷いた。
濃い栗毛はとてもたおやかで品良く見えて、落ち着いた雰囲気で、自分を見つめる濃紺の瞳が月の光に深い色のサファイアみたいに煌めき、とても頼もしかった。
つづく。

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