くつろぐ間も無く、アイリスがそっと皆を見回した。
「注意点がある。この屋敷は迷路みたいに、廊下を進むといきなり庭に出たり、小部屋は至る所にあるし、区切られた庭園や二階があちこちにあるから、絶対人気の無い所には行かないようにしてくれ。
探訪と言って、皆喜んで巡るけど、大人で最長二日間、屋敷内で迷った記録が、ある」
皆があんぐり、口を開けた。
オーガスタスが俯いた。
「ディングレー。絶対ギュンターから、目が離せないぞ」
ギュンターは思い切りむっとしたが、ディングレーは頷いた。
「奴の為にあるような屋敷だ。シェイル。ローランデに張り付いてろ」
シェイルは頷く代わりに懐から短剣を、すっと差し出した。
「人が大勢居るから投げられないが、肩に手を掛けたら刺せる」
ローランデは思い切り顔を下げ、皆、彼の本気の気合いに、ぞっとした。
ゼイブンも話にのっかる。
「高級娼婦を幾人も抱える事業主が、ひっきり無しに屋敷を売らないかと、ここの主に交渉している」
皆、ゼイブンのその、秘密の隠し小部屋や区切られた小庭がたくさんあるロマンチックな場所でのピンクの妄想が解って俯き、アイリスはきっ!と『そんな場合か』と彼を睨んだ。
「迷った子供の最長記録は、一週間だ。ゼイブン」
ゼイブンはファントレイユを見て、眉を寄せた。
「絶対はぐれるな。置いていくからな!」
だがファントレイユはいつものように青くなる代わりに、ローランデを見た。
レイファスが代わって言った。
「悪いね。ローランデや、ローフィスやディングレー達は誰かと違って優しいし、テテュスも一緒だったらアイリスは絶対、僕らを放って置かない。
いつもの手が使えなくて残念だね。ゼイブン」
にっこり笑うそのとても華やかで可愛らしい小悪魔に、ゼイブンは唸った。
「なら、今の内に食い物と飲み物をポケットに、詰め込んで置け!
最長の一週間に挑戦する気ならな!」
アイリスがレイファスにそっと言った。
「真面目な話、本当に入り組んだ構造なんだ。
廊下を調子に乗って進むと、とんでも無い場所に出るのは事実だから。絶対広間とか、人の多い場所に居るようにして、小さな廊下や庭には、入り込まないようにするんだよ?」
テテュスもファントレイユも頷いたものの、凄く残念そうにレイファスを、見た。
レイファスも、解った。と項垂れた。
が、直ぐに顔を上げる。
「ローフィスは、ここで迷った事、無い?」
ローフィスは直ぐに言った。
「ここで迷わない奴は一人も、居ないぞ?レイファス。
中央広間から余所へ行けば、必ず訳が解らなくなる」
テテュスも、びっくりして彼を見た。
「ローフィスでも、迷うの?」
アイリスが、きっぱと言った。
「テテュス。ローフィスを探検に誘わないと約束して」
テテュスは思い切り、項垂れて頷いた。
ファントレイユはゼイブンを見たが彼は、問題外だと、余所を向いた。
ディングレーが、がっかりする子供達を、気の毒そうに見つめるのに気づいたオーガスタスは、彼にそっとささやいた。
「奴らと一緒に迷ったら、間違いなく笑い者になるぞ」
ディングレーはオーガスタスを見上げると、もう一度短い、吐息を吐いた。
つづく。
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