エリューデ伯爵夫人邸は確かに、素晴らしく趣味のいい建物で、華奢な塔が二つ並ぶ、珍しく横より縦に長い豪邸だった。
門から既に、大勢の馬車が押し寄せ、ローフィスを先頭に一同は混雑する馬車の間を、すり抜けて進んだ。
馬留めでも、大勢の使用人が貴人達から手綱を渡されて馬を引き、貴人達は控えの間に、次々と案内されて行く。
ローフィスがアイリスの名を告げ、馬を降り立つ一団を連れだと振り向いた途端、使用人のその男は慌てた。そして、丁重に暫く待つよう告げられ、彼は年上の威厳ある男にその騎士達の来訪を告げ、白い立派な髭の威厳溢れる侍従は彼らを、揃って表階段へと促した。
見事な装飾の美しい、白い階段を登った先の、一室へと促され、彼らはその室内の豪華さに、目を丸くした。
赤の絨毯。赤のソファ。素晴らしい金糸の縫い込まれた、赤いシルクの寝椅子。部屋を囲む白い壁の至る所に、金の飾り模様。良く落ちないな。という位これでもかと金細工とガラス装飾で飾られた、豪華そのもののシャンデリア。
侍従はうやうやしく礼を取り、「おくつろぎを」
と告げて退室後、それぞれが口を開く間無く、手や顔を洗う銀の皿と布。続いて、果物が盛られたもの。飲み物が、列を成した召使い達によって持ち込まれ、それぞれが飲み物を聞かれて、それを口にして注文した。
「凄いもてなしだな」
オーガスタスが目を丸くしてつぶやくと、シェイルも呆れた。
「招待客も多いしな」
ディングレーがグラスに食前酒を注がれながら、今更ながらにぼやいた。
「あいつの“気軽”ってのは一体、どうなってんだ?!」
ギュンターが直ぐ横でその剣幕に顔をしかめた。
「当人に文句言え!
・・・だがあの様子じゃ、馬車は入場制限待ちで、アイリスは当分ここに顔を出しそうに、無いな」
ローランデが窓の外の、その人が群成す凄い混雑の様子を見てつぶやく。
「馬で正解か」
が、一同が食べ物を選び皿を手渡されて、それを口に放り込もうとした頃に、アイリスとその一行は顔を、出した。
「・・・早いな」
ローフィスに驚き混じりに言われ、テテュスが駆け寄って、ローフィスを見上げた。
「門近くで馬車を降りて、庭園用の屋根無し馬車に乗り換えて、来たんだ!」
ファントレイユスもディングレーににこにこ笑った。
「止まって待ってる馬車に侍従がやって来て、『どうぞ、こちらに』って。他を差し置いて、特別待遇だった!」
が、言った後ふと、大貴族のディングレーを見、
「・・・ディングレーは、いつもそう?」
とそっと聞いた。
ディングレーはぶっきら棒に告げた。
「そういう場所ではな」
が、ローフィスは肩をすくめた。
「ゼイブンと違って彼は宴会嫌いだから、滅多に無いだろうな」
ゼイブンは後ろから来てどっか!と椅子に掛けて早速召使いに飲み物を頼み、ぼやいた。
「代わりに招待に出かけてくれと依頼されたら、いつでも行くぜ!」
ディングレーは内心、そのやり方もあるなと頷き
「機会があれば、頼むかもな」
とつぶやくが、アイリスが直ぐに、言った。
「後で、苦情を受けてもいいのか?」
ローフィスも告げる。
「覚悟が要るぞ」
ディングレーが二人を見た。
「どうして?場慣れしてるんだろう?」
オーガスタスが肩をすくめた。
「見て、解らないか?来た美人をひっきりなしに、口説く気だ」
ギュンターも唸った。
「連れの女にちょっかいかけられたと絶対、場の男達に睨まれまくる」
ローランデとシェイルと一緒に、子供達もゼイブンを見たが、彼はその言い様に肩をすくめた。
つづく。
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