ファントレイユはゼイブンを、見上げた。
ローランデはまた、テテュスとレイファスを相手に、打ち合っている。ゼイブンはそっと、ファントレイユに屈んだ。
「見てろ」
ファントレイユは、頷いた。
テテュスは果敢にローランデにかかっていき、もう遠慮は微塵も、無かった。
ファントレイユは自分より大柄な彼が、とてもしっかり剣を扱うのを見て、感心した。
ローランデはでもやはり、テテュスが突き入れる剣を先読みしてその剣を軽く合わせて、止めている。
流麗な、見事な流れるような動作はもう、目に焼き付いていたけれど、ローランデが思いの他、テテュスに優しく接していると、解った。
レイファスから短剣が、飛ぶ。とても可愛らしい一番小柄なレイファスは、だけどその性格そのままに、さっと投げる手を後ろに引き、その肩で隠し、ローランデがテテュスの剣を止めに行くその時、一瞬で短剣を、投げていた。直ぐに、長剣を振り、ローランデにかかっていく。
ローランデはすっと左手を上げて、見もせずに、その短剣を弾き、もう一度振りかぶるテテュスの剣を軽く弾いて跳ね上げ、そのままレイファスから来る剣を、合わせて止めた。
ゼイブンが、ファントレイユの横に顔を近づける。
「ローランデの呼吸を、盗め」
ファントレイユは呆けて見ている自分が、恥ずかしかった。ローランデを見る機会は少ない。だから、彼が剣を振ってるその短い時間を惜しめと、ゼイブンは真剣な眼差しで告げていた。
呼吸・・・。
「解るか?気配だ・・・。よく見て、自分を彼に併せろ・・・。違いが、解る迄」
ファントレイユは少しずつ、ゼイブンの言った意味が、解ってきた。ローランデのつもりで、剣を振ってる気に、成った。
もう、腕を引いてる。左に振ってテテュスの剣を止め、直ぐだ。もうレイファスの剣も、止めて、さっと左を上げて、短剣を弾いている。
ファントレイユの息が、上がる。がローランデの呼吸は全く、乱れていない。
「お前、突く瞬間は息を吐くがその直ぐ後、詰まらせるだろう?」
「剣を持ち直す時・・・そうなる」
「力を入れようとするからな。吐け」
ファントレイユはやり直した。
ローランデは華麗に左手の剣を横に振って短剣を叩き落とし、下げ、左肩を後ろに引いて直ぐ右から弧を描き自分を襲うテテュスの剣を右手の剣で、止める。
がちっ!
「!」
ファントレイユには、解った。
止めてテテュスの剣が当たる瞬間、ローランデはぐっ、と“気"を、溜める。そして直ぐに吐き、体を柔らかく使い直ぐに、レイファスの剣も、止めた。
やっぱり・・・!
受け止める一瞬、ローランデは息を、止めていた。
でも、自分がするように息を、詰まらせたりせず、息苦しくなったりはしていない。
ぐっ・・・と・・・。
その瞬間柔らかなローランデの体に力が、溜まるみたいだ・・・。
また・・・!
振った剣ががちっ!と当たる時・・・そしてローランデが攻撃の剣をテテュスに入れて・・・これ以上突き入れたらテテュスが怪我をする。という瞬間、やっぱりローランデはぐっ!と息を止め、そこで剣を引く。
でも一瞬だ・・・。
ファントレイユもそれを、マネしてみた。
けど、止めてみても体に力が漲る感じは、しなかった。
「・・・腹だ。お前は肩に力を入れて息を止める。がローランデは腹に力を入れて剣を止めている」
ゼイブンの声が耳元でし、ファントレイユは夢中で、自分で試してみた。
だが腹に力を入れると、体が一瞬、固くなる。
ファントレイユはゼイブンを、見た。
自分と同じ・・・と言われてる、いつもとても綺麗だと思う鼻筋の、綺麗だと思える引き締まった顔が、こちらに傾けられる。そのブルー・グレーの瞳が一瞬自分を、捕らえてゼイブンがつぶやく。
「腹をへこませて、息を吐け」
ファントレイユは試してみた。
出来て、ゼイブンを見上げる。
「へこませる時、力を入れてへこませて見ろ。息は絶対、止めるな」
ファントレイユはようやく、少し意味が、解った。
腹に力の入れ具合で、確かに調節、出来る気が、した。
でも力を入れるとどうしても、息が止まる。吐きながら・・・・・・・・・。
でもそれを聞いた後、ローランデが、短剣を弾く時、そして剣を合わせる時、一瞬腹への力の入れ加減で調節しているのが、確かに感じられた。
ファントレイユはゼイブンを、見上げた。微笑んで、いた。がゼイブンは真面目な顔でローランデの動きを見つめたまま、ファントレイユに屈む、腰を上げた。
つづく。
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