だが道行きは短かった。
アイリスの領地内で、屋敷中央の庭から少し小高い丘の果樹園を抜け、丘を下った先に、その場所がある。
アイリスは農具を持つ使用人に話しかけ、そして池のような湯の湧き出る湯気立つ場所の横を、通る。
「ここじゃないのか?」
後ろからギュンターの声が、飛ぶ。
「あの建物だ」
坂を昇る上に、見るからに手の込んだ小さな建物が見えた。
柱には装飾の彫刻が掘られ、優美なオレンジの屋根。象牙色の壁をしていた。
その前で馬を繋ぐ。
一同に付いていくが、テテュスはその場所の記憶がうっすらと蘇った。
入ると、脱衣場があって・・・そしてその先に、乳白色の湯がたっぷり張られた豪華なタイル張りの広い浴場が・・・。二つ、三つに区切られてあった筈だ。
浴場はだが段差になっていた。手前から段々下って行き、下の方の区切られたその場所にはもう、屋根が無くてそのままタイルを貼った床から庭へと、続いていた。
庭は仕切られ、誰かが入ってこられないようになっていて、素晴らしい花々が咲き誇っていた。
ギュンターが呆れ、オーガスタスがディングレーについ、訊ねた。
「お前の所も、こんなんか?」
ディングレーが肩をすくめた。
「こんなに手は込んで無いがまあ・・・。平屋でそれなりりには広い浴場だ」
ギュンターはオーガスタスを見た。
「俺は岩の露天しか浸かったことが無いぞ」
オーガスタはこれだから大貴族は・・・と肩をすくめ
「ご同様だ」
とギュンターに同意した。
ファントレイユもレイファスも、同感だった。
だがシェイルもローランデも、素晴らしいね。と言いながら驚く様子も無かったから、自宅か出入りする場所にこういう場所があって慣れているんだろうと、思った。
見ると誰も何も言わない内から衣服を脱ぎ出すものだから、ファントレイユもレイファスも慌てて服を脱ぎ出した。アイリスがテテュスを連れて先を行き、シェイルもローランデも、競い合う程色白な素肌を晒して並んで立ち、見つめて二人を促すものだから、ファントレイユはとても焦った。レイファスが慌てて脱ぎ散らかすのを目に、自分もブーツを放り出すと、付いていく。
浴槽の横にある、段差の低い階段を、滑らないようにとシェイルとローランデに気遣われながら下り、一番下の庭に一番近い浴槽に入ると、乳白色の湯の広がるその浴槽は六人が入ってもまだ余裕の広さで、上を見ると天井が無くて青空で、レイファスがつい、「わぁっ!」
と無邪気な声を上げて皆の笑いを誘う。
だがファントレイユが見ると、残りの三人は脱衣場に近い、一番上の浴槽に浸かっていた。
「・・・どうして一緒じゃ、無いの?」
彼の問いにアイリスが答えた。
「こういう時はギュンターが、一番危険になるからね」
ファントレイユにはさっぱり解らなかった。だって裸だと剣も短剣も、隠し持ったり出来ないのに?
レイファスには解ったみたいで、軽くローランデを見つめたが顔を、伏せた。
つづく。