彼は微笑み、剣を持ち戻るファントレイユに言った。
「腕を見ると言ったろう?
私に講義をさせてくれない気か?」
ファントレイユは顔を上げた。
そう微笑む騎士はとても優しい青い瞳を、していたからだった。さっきの鷲か鷹のような、素早く襲いかかる鋭い剣とはうって変わって。
テテュスも剣を拾いに行くと、アイリスが地面に落ちたそれを取り、テテュスに手渡した。
テテュスは一瞬彼を見つめたが、くるりと背を、向けた。
アイリスの少し寂しげな表情にオーガスタスは思い切り、呆れ、横に立って居たディングレーは気遣うようにささやいた。
「息子の成長を喜んでやれ」
アイリスのしょげた顔に、ギュンターが唸った。
「・・・娘と、間違えてないか?」
オーガスタスが肩を、すくめた。
ファントレイユはディアヴォロスに、『足を鍛えろ』と言われた理由が、解った。
足捌きであれ程違うと、思わなかった。テテュスも同感の、ようだったが彼はローランデの剣の扱いが、素晴らしいと思った。全く淀みなく、見ている視線では追いつかない相手の隙を、的確に突いてくる。しかも、二人同時だ。
ローランデは二人が真剣に見上げるので、また微笑むと、ファントレイユに向いて言った。
「リズムが、大切だ。剣を使うのと足とは連動している。大振りをする時深く踏み込むだろう?
だがそれをしたら相手は直ぐに、剣が来ると察する。持っている剣を弾かれたら、深く踏み込んだ時体勢は直ぐに、崩れる」
ファントレイユは、頷いた。
「体勢が崩れれば簡単に隙が出来、相手に討ち取られる。君の剣には気迫があってとてもいい。
でも、簡単にその剣が、来ると読める」
ファントレイユはまた、頷いた。
「剣は力だと思うか?
確かに、大柄な剣士は力が強いし、その激しい剣を止めるにはそれだけの筋肉が必要だ。けれど避けられれば、その必要は無い。
・・・だからといって相手が剣豪なら時には止めなくてはならないから、鍛える事は必須だ。
でも、10本全部で無く、二、三本で済めば、体力は温存出来る。
疲れ切れば、相手に殺してくれと言うようなものでそうなったら・・・殺されるか降伏するしか手が無く、相手次第では殺される方を選んだ方がいい場合も、ある」
ファントレイユは瞳を見開き、テテュスは顔を揺らした。
「いつも、次を考えるようにしなさい。今で無く。次にどうするかを。先手を打つと相手に隙が出来る。
討ち取る事が、出来る。だがさっきの君達は、今飛んでくる剣を受けるのに、ただ必死だったろう?
勿論、私は君たちが次に手を打てないような場所に剣を振り入れた。が、それでも体勢を崩す事無く次の攻撃が出来なければ、事態は変わらないんだ」
テテュスが、頷いた。
ローランデはテテュスを見つめた。
「君は天性の、カンを持ってる。相手を自分のペースに引き込めば、相手が避けにくい場所に君は剣を入れるから、相手に隙が出来て、勝率はぐんと上がる。
・・・でも自分の剣が振るえなければ、意味が無い」
テテュスはローランデにつぶやいた。
「どうやって自分のペースに引き込むか、覚えろと言う事ですね?」
ローランデは笑うと、
「色々やり方がある。相手も色々で、どの手が通じるか、やってみないと解らない」
テテュスは頷いた。
ローランデは見ているギュンターに顔を向けると声かけた。
「ギュンター。少し相手をしてくれ」
ギュンターは顔を上げたが、憮然と告げた。
「言っとくが、加減出来ないぞ!」
ローランデは頷く。
ファントレイユとテテュスは脇にどくと、恋人同士の二人が剣を交えるのを、どうなる事かと見つめた。
が、ギュンターは剣を抜くと構えたまま、抗議するように暫くじっと、ローランデを見つめる。がローランデはいきなり、燕のような素早さで彼の懐迄突っ込んで行く。
途端、ギュンターは気づくとさっと体をよけて、避けた。ローランデが体毎ぶつかって行くように見えたのに、その切っ先は鋭く、ギュンターの脇を掠める。
剣を、振るのが早すぎて、見えない。
だが避けたギュンターの体勢が崩れた所に再びあっという間に優美な動作できびすを返したローランデの剣が、襲う。
さっきよりもっとローランデは足を使い、次の動作も判断も早かった。その、流麗な鋭い攻撃につい、ファントレイユもテテュスもが、見とれた。
剣を、下げたかと思うともう、素早くギュンターの脇を襲い、ギュンターが体を振って避けると直ぐに剣を戻し様ギュンターの、肩へと振り入れる。
一瞬の淀みない、舞踊のようなその流れる動作で、間を置かず、相手に避けられたとしても、動揺も見せずに直ぐ、次の攻撃を仕掛けていく。
ギュンターも自分達同様、攻撃に転じるのに苦労していた。どう見てもギュンターの方が大きく、それに下手だと言ってたけど、一度剣を振ったら、その威力は凄まじいんじゃないかと思う、激しい振りだ。
ローランデの、ひっきり無しの攻撃を受け続け、ギュンターがどんどん、戦意を増していくのが、解った。が、ローランデはどう見ても早さで勝る。
どれだけ振った剣をかわされようと、体勢を崩す事無く直ぐ次の剣を振り入れる動作は、見事だった。ギュンターはローランデのその剣が、彼の本来の剣捌きを使わせないよう隙を、間髪入れずに突いて来るその五月蠅さに、唸った。やっと剣を、鋭く払うように振るが、ローランデはもうとっくにその場を飛び退き、さっとギュンターの背に回って剣を、頭上から振り入れる。
がっ!ギュンターが振り向き様剣を受けるが、ローランデは素早く剣を引き、一歩下がると横に滑り様次の攻撃に、移っていった。
つづく。