ギュンターが一瞬、アイリスを、見た。
アイリスの、止める様子が見受けられず、ギュンターは視線をアーシュラスに、戻した。
アーシュラスはだが、馬鹿にするなと、拳を振った。相変わらず空をびっ!と切り裂き、その威力に衰えは無かったが明らかに視線は彷徨い、平衡感覚を無くしているのが解った。
ギュンターは止めないアイリスに、良いんだな?と無言で拳を構えると、今まで喰らったお返しを始めた。
だが・・・・・・・・・。
腹の一カ所に集中して、ギュンターの拳が次々、入る。アーシュラスはずしんと体が重くなっていくのが、解った。五発目で、それでもアーシュラスは立っていたが、目は完全に、光を無くしていた。
「ギュンター。殺したいか?」
アイリスが声を掛け、ギュンターが顔を、上げた。
唇に血を滲ませ、アーシュラスの重い拳を散々受けて彼自身もひどく、憔悴してはいたが、腕組みして自分を見守るマリーエルに顔を振って、つぶやいた。
「・・・後が、居るしな」
アイリスは頷くと、アーシュラスの侍従達に、手を貸すよう頷いた。
彼らは、アーシュラスに駆け寄った。
ギュンターが、それでもフラついて、戻って来る。
通り過ぎ様アイリスが尋ねた。
「まともに喰らったのは、何発だ?」
「三発程はかなり、ヤバかったな」
「・・・まっとうに入ったのは?」
ギュンターが顔を上げて、その紫の瞳でアイリスを睨んだ。
「・・・あいつのがまっとうに入ったら、それで終わってる」
アイリスは、やっぱり?と肩を、すくめた。
ギデオンが見ていると、ギュンターは微笑を浮かべてローランデに寄り来る。ギデオンの、隣に居たローランデは、色白の顔を青冷めさせ、眉を寄せ、掠れた声で叫んだ。
「・・・どうして、そんなに馬鹿なんだ!そこ迄して・・・・・・。倒さなくても、いいだろう?!」
ローランデに倒れかかるように前に立つと、それでもギュンターは、彼を見つめて、笑った。
「笑い事じゃ、ない・・・」
ローランデの青の瞳が潤み、ギュンターは少し、咳き込んだ。ローランデは慌てて彼の肩を、支える。
「・・・・・・・・・どうせまた、暫くは動けないんだろう?」
「お前に関わるといつも、ぎりぎり迄自分を出さないと、勝てない」
「勝たなくても・・・!」
ギュンターが、顔を、上げて異論を、唱えた。
「・・・じゃなきゃ、お前は手の上に、落ちてこないじゃないか・・・」
ローランデはもう、泣いていた。
「そのやり方を諦める気は、無いのか?だって・・・お前なら誰でも望むままだろう?」
ギュンターが、ムキになった。
「望むままじゃないから、こう、成っている!」
ギデオンがつい、ぷっと吹き出し、ギュンターの視線を感じて、ふいと顔を、そらした。
アイリスが頷き、彼の部下がローランデに手を貸し、ギュンターは両側から支えられて、会議場を、出た。
ギデオンがその背を見送り、アイリスに視線を戻した。
「・・・わざと、受けたのか?」
アイリスは、大きなため息を吐きながら頷いた。
「息の根を、止められない程度に受けて、相手の油断を誘った」
アイリスの濃紺の瞳は、微笑って、いた。ギデオンは彼がどれだけギュンターの事を信じているのか、解った気が、した。
ダーディアンはそっとマリーエルに、尋ねた。
「知ってたのか?」
「・・・あいつが大馬鹿だって事は餓鬼の頃から、痛い程知ってるぜ!」
吐き捨てるようにつぶやく。
「・・・まあ・・・あれで親父をほだして落とされちゃ、息子としては苦々しい限りだ」
マリーエルは思い切り、同意して頷いた。
ウェラハスの、ため息が洩れ、二人が振り向いた。
「・・・一途だな」
ダーディアンがすかさず、言った。
「・・・気持ち悪いがな!」
マリーエルも怒鳴った。
「その、通りだ!」
つづく。