アースルーリンドの騎士追加特記その69 | 「アースルーリンドの騎士」

「アースルーリンドの騎士」

オリジナル  で ファンタジー の BL系小説。
そしてオリジナルのイラストブログ。
ストーリーは完全オリジナルのキャラ突っ走り型冒険ファンタジーです。
時折下ネタ、BLネタ入るので、年少の方はお控え願います。

息を切らしてギデオンは振り返るが、ローゼがまだ、ファントレイユ相手に眉間を寄せていた。
ローゼは、そこをどけ・・・!
と言わんばかりにファントレイユを突き離そうとするが、ファントレイユは一歩もその場を、引こうとしない。
ギデオンの眉が、その光景を目にして、切なげに、寄った。
・・・普段優雅なその男は、見た事の無い程の気迫を漲らせ、ローゼが振り入れる素早い剣を、尽くはじき飛ばして見せた。静かな気迫を威圧にすら変え、一歩も退く気の無い厳しい表情でローゼを睨み据える事を、止めない。
ローゼの、相手にすらならないと思っていたその敵の手強さに、その顔を歪めて焦る様子が手に取るように伺える。
ずばっ!
・・・だがついにローゼの早い剣が、ファントレイユの肩を掠る。ファントレイユの瞳が、一瞬駆け抜けた肩口の熱さに瞬く。
ローゼは笑った。
が、ファントレイユは痛みに呻くどころかその瞳を少しも泳がす事無くローゼを見据えたまま、静かに剣を、握り直す。
見ると右肩口から血が、滴り始めている。
ギデオンが口を開こうとしたその時、ファントレイユの剣が隙を付いて返礼のように、ローゼの脇を、目に止まらぬ早さで掠めた。
一瞬、焼けるような痛みが腹に走ったのか、ローゼは体を揺らし、その顔が、驚きに歪む。
見えなかったんだな・・・。
ギデオンは思った。
こんな早業を、彼は一度だって人前で披露した事が無い。
だが明らかに、ファントレイユの礼の方が上手だった。
・・・その滴る血は、ローゼの方が、多かった。
今や誰の目にも使い手として人を殺す腕では隊一の、『人切りローゼ』と異名を取るその男なんかより明らかに、ファントレイユの方が、上に見えた。
だが・・・。ギデオンは知っていた。
上を行ったのは剣の腕だけで無く、その凄まじい、気迫だと・・・・・・・・・。
ギデオンはファントレイユに、もういいと声を掛けようとし、彼のあまりの気迫に言葉が、出なかった。
ローゼの瞳に、ファントレイユの背後、ギデオンが様子を伺う姿がチラと映る。そして・・・レンフィール、シャッセルが、荒い息を吐きながらも自分の背に、剣を向ける気配に、気づく。アドルフェスが少し遅れて、やはりその背に、剣を構えた。
正面のファントレイユの他、背後を三方から彼らに狙われ、ローゼはとうとう視線を、正面で今だ殺気を解こうとせず睨み据えるファントレイユからそっと外し、ぎらつく殺気を滲ませて剣を向ける三人の剣豪達にそれぞれ、送った。
右斜め後ろのシャッセルも、中央後ろのレンフィールも左斜め後ろのアドルフェスも、ローゼがそれより一歩でも動けば斬り殺す腹で、動くのを、剣を握りしめてじりじり待っている様子だった。
シャッセルは殺気を纏いながらも、ぞっとする程、静かに。
レンフィールは笑みすら浮かべ、剣を下げて殆ど遊んでいる程軽く握り、だが敵が動けば直ぐにそれを一気に振る様子で。
そしてアドルフェスは、ギデオンを殺そうとした男を、生かしておく気は全く、無いように高く剣を構えて凄まじい瞳で急所を、狙いすましていた。
が、ギデオンが叫んだ。
「・・・・・・・・・・・・殺すな!」
その声で、ファントレイユはようやく、気迫を解いて、剣をゆっくりと、降ろした。

 つづく。