ギデオンはその城の中で剣を振るっていた。
野営の城に到着後間も無く、すぐ隣領地のカディツ公の居城より救援要請があり、直ちに出陣し、城の中で圧倒的少数で敵に立ち向かう、城のお抱え騎士達の加勢に飛び込んで、彼らを安堵させた。
平常の戦とは違い、幾つもある豪華な部屋部屋に敵は散り、数度ギデオンが剣を振るい、一撃の元に切り倒すのを目にした男達はそれ以上彼に向かって来る事無く、逃げ出す。
ギデオンは、向かって来ない敵に思い切り腹を立てて、室内を歩き回って敵を探して移動していたが、戸の影から、箪笥、彫像の影から敵は急襲して来てその度、彼は剣を振り下ろした。
城内をそんな風にうろついているのは自分だけで無く、途中階段下でシャッセルの姿を見つけたが戦っている風も無く、やはり同様、襲い来る敵に、身構えている様子だった。
ギデオンがその、豪華な階段を登り切ったその先の、素晴らしい額縁に飾られた絵画の並ぶ広い踊り場に立つ。
その正面の部屋を探そうと進むその背に向かい、突然開け放たれた戸の影から、敵が急襲して来た。
シャッセルが、階段途中でその狼藉者を目にし、慌ててギデオンの背を護ろうと階段を駆け上がる。
そのシャッセルの姿に、ギデオンは気づく。
が、敵を見る事無く瞬時に向けられた殺気に対して振り向き様、思い切り剣を振り、相手はやはり、その一撃で床に、倒れ伏した。
駆けつけたシャッセルが、僅かに息を切らして倒れた敵を、見る。
そしてギデオンを正面にから声無く見つめると、ギデオンはシャッセルに強い視線を向けた。
シャッセルは瞬間はっと気づく。
背後から、いきなり襲いかかる剣を、振り向き様自らの剣で、止めた。
だが敵と合い対し、剣で押し合いながら、シャッセルはその時思った。
・・・これが普通だ・・・・・・・・・。と。
背後から襲いかかる剣をかわして自らの剣を敵も見ずに振り入れ・・・・・・そして一撃で殺す事等、ギデオン以外に一体誰が出来る?
シャッセルはその剣を力尽くで跳ね除け、自らの剣を素早く構えると、思い切りその男の横腹に振り入れた。
男は呻くと、傷を抑えて倒れ込んだ。
シャッセルが一息付いて顔を上げると、ギデオンはこの戦場で素晴らしく浮き立つ綺麗な姿で、だが尊大に顎を上げ、息一つ乱さずこう彼に告げた。
「・・・私の心配は無用だ。
自分の心配を、しろ」
見下す風も無く、その声に気遣いが潜み、シャッセルは心の中で彼に感謝の、一礼を、した。
その先に進むと、次々に敵が、降り懸かるように襲ってきて、シャッセルはギデオンの斜め後ろに付けながらも、ギデオンと共に五人程飛び込んで来る敵と対した。
シャッセルは、自分に襲いかかる剣を剣で受け止め、ついそれを、目にした。
豪奢な金の髪が、散る。
降ってくる剣を屈んでかわし、瞬時に相手の懐に剣を深く突き入れ、それを引くなり弧を描く間すら無く銀の残像を一瞬残す早さで、斜め前の男の腹を踏み込み様思い切り払い退け、その男達の後ろから剣を振りかぶる敵を、剣を振り上げながら一歩退き、相手が握りに力を込めて振り入れるその前にさっと踏み込みあっという間に間を詰めては、ばっさりと肩口から、激しい一刀を振り入れる。
・・・あんまりその姿がしなやかで美しく、勇猛で見事で、シャッセルは一瞬、見惚れて視線が動かない自分を制した。
自分も敵の剣を、剣で受け止めて対して居るというのに、ギデオンはその間に、三人を斬り殺していた。
シャッセルが、気合いを入れ直し、瞬間剣を外してその男の脇を早く鋭い一撃で突き倒し、その横から逃げ去ろうとする敵の背に、思い切り剣を振り入れ、切り捨てた。
見るとギデオンはもう先に、進んでいて、アドルフェスが自分の姿を見つけて後ろから近寄って来た。
黒髪で、自分と同じくらいの身長の、頑健な体付をしたその男前の騎士は、厳つい表情を一瞬、シャッセルに向けて、肩を並べてギデオンの背に続いた。
アドルフェスは、射るような藍色の透ける瞳をギデオンの背に投げ、彼の後ろからその室内を、見た。
宝物部屋なのか、激しく荒らされ、物色した後があり・・・その散乱する室内の向こうに、一人、青年が倒れかけていた。
ギデオンが近寄ると、彼は脇を押さえ、そこから血が、吹き出しているようだった。
その他にも、肩や腕に数カ所傷を作り、それでも倒れ込まずに何とか崩れ落ちそうな体を剣で支えながら、ギデオンを見つけると、顔を上げてささやいた。
「・・・頼む・・・・・・・・・。弟を・・・・・・連れて行かれた。
助けてやってくれ・・・・・・!」
「カディツ公子息か?」
ギデオンが問うと、青年は痛みに顔を歪ませながら、頷いた。
「・・・ウィリッツだ・・・」
ギデオンは後ろを振り向き頷くと、シャッセルがその視線を受け止め、ギデオンの横を抜けてその若い青年に掛け寄り、傷から手を離させて携帯した布を胸元から取り出すと、止血を始めた。
ギデオンが背を向けて駆け出すとアドルフェスが続き、彼らは盗賊の死体の転がる階段下の広間に集う部下に告げた。
「子息がさらわれた!何としても、探し出せ!」
全員が、ギデオンの言葉に一斉に、城内外に、散って行った。
つづく。