「・・・・・・シャッセル。済まない・・・・・・。
ギデオンが君を、寄越したのか?」
並んで歩くとファントレイユは頭一つ程高いその白碧の騎士を見上げて、そっとささやいた。
だがシャッセルは、ぶっきら棒に告げただけだった。
「・・・急げ・・・!」
ソルジェニーはつい、ごつい男にいつも『何様だ』とどつかれていると言っていたファントレイユを思い出して、少しはらはらした。
が、ファントレイユはそっとつぶやいた。
「・・・私を迎えに来るなんて役割はさぞかし、大貴族の君には、不本意なんだろうな・・・」
だがシャッセルは、身分は関係無いような表情で彼を見つめ、それを打ち消した。
「・・・ギデオンの、命令だ」
ファントレイユは、心から忠義をギデオンに捧げるその騎士に、解ったと、頷いて見せた。
ソルジェニーにも解った。
あまり表情の無い、シャッセルの真意を測る為に、ファントレイユがわざとそう、カマをかけたのが。
二人が並ぶと、シャッセルはどこかそれは静かで、湖のような澄んで透明な雰囲気があって、どう見ても騎士としてはシャッセルの方が素晴らしい容貌にも関わらず、ファントレイユは、それは優雅で輝きに満ち、やはり際だって美しく、見えた。
ソルジェニーは思わず心の中で、ファントレイユは多分、どこに居ても人目を引かずには居られない人なんだと、解って感嘆した。
だが門を潜り、近衛の中庭に入ると、兵がばたばたと、出立の準備で走り回っている。
ギデオンの、その向こうで数人の騎士と話をしている姿が目に映った。
・・・相変わらず、その独特で艶のある豪奢な金髪は恐ろしく目立つ。
またそれだけで無く、男ばかりの近衛で彼の、その整った小顔の、色白で美女のような容姿に、目が引きつけられずには、居られなかった。
彼はいつもの、その瞳と同じ色の、緑がかった青の、控えめな刺繍を刺した、素晴らしく高価そうな上着を、その身に付けて堂としていたりしたから、一目で彼が、それは身分の高い男だと周囲の者にも解る程だった。
が、ギデオンは門から現れた三人を目にし、少女のように可憐ではあるが、明るい青の高価な上着を、意に添わぬようにぎこちなく着こなし、付き添うファントレイユに心元無げに視線を送る可愛いソルジェニーに、心からの笑顔を向けた。
ソルジェニーがそれに気づき、途端に満面の笑みを彼に返すと、ギデオンはそれは満足そうに、使いに出たシャッセルに、ご苦労、と丁寧に頷いた。
ソルジェニーはギデオンのその様子で、彼がこの白碧の騎士を、随分信頼していると、解った。
ファントレイユがギデオンを見ると、彼は言った。
「・・・やっぱり、迎えが必要だったんだろう・・・?」
ファントレイユは珍しく返す言葉を、探している様子で、ギデオンにはそれが解って彼に告げた。
「・・・言い訳はいい・・・。
それよりソルジェニーと、馬車に乗ってくれ・・・!」
ギデオンが顔を向けるとそこには、用意された、それは豪勢な飾りの付いた馬車が、御者に制され、待っていた。
「・・・君の馬は誰かに引かせるから。
後からゆっくり来てくれて構わない。
用意は全部、出来ているから、もう乗り込んでくれ。
馬車が先頭で兵舎を出るが、その後直ぐに我々が追い抜く」
ファントレイユが頷き、王子に視線をくべて馬車に向かうと、ギデオンは言った。
「・・・ああ・・・ファントレイユ」
彼は振り向く。
「・・・ソルジェニーを、頼む」
ファントレイユは、それは素晴らしく微笑んで、ギデオンに頷いた。
ギデオンは王子に寄り添うファントレイユに、心からの信頼を寄せている様子を見せ、彼の後ろに居た数人の、取り巻きの立派な騎士達の、顔が一斉に、歪んだ。
シャッセルですら、冴えない表情を、して見せた。
馬車に乗り込むと、それはすぐに動きだし、ファントレイユは揺れる室内でソルジェニーに、顔を傾けて告げた。
「ね?ギデオンは背を向けて見えないが、私の方からは後ろの騎士達の表情がそれは良く、見える物でしょう?」
ソルジェニーはそんな彼の言葉に思わず、笑った。
つづく。