が、ソルジェニーは、いつものように余裕いっぱいでそれは優雅な隣のファントレイユを見た途端、ふ、と先程の、ギデオンがあの酒場から無事出てくるかをそれは心配そうな、喰い入るような真剣な瞳で道を見つめていたファントレイユを思い出し、ギデオンに向かってそっとささやいた。
「・・・さっき・・・・・・、待っている時間が長かった・・・」
「いつ・・・?」
ギデオンがフォークを止めると、尋ねた。
「・・・店から出た後・・・。
ギデオン、なかなか来なかったでしょう?」
ギデオンは途端に、すまなそうに表情になった。
ファントレイユの視線がまた、思わず見慣れぬギデオンのその表情に、釘付いた。
ギデオンが、声を落としてソルジェニーに、労るように、ささやく。
「心配かけて、悪かったな・・・・・・・・・」
素直に謝るギデオンのその様子に、ますますファントレイユはギデオンから目が離せなかったが、王子は首を横に、振った。
「でも、私よりファントレイユが・・・・・・・・・」
言って、ソルジェニーは彼を見るが、ファントレイユは途端に視線を、ギデオンを凝視していた様子を気づかれない様そっと下に移して素知らぬ顔をした。
だがギデオンは、王子を見つめたまま、つぶやいた。
「・・・ファントレイユ?彼は心配したりは、しないさ。
私の事を良く、知っている。
・・・そうだろう?」
ギデオンの視線がようやくファントレイユに、移る。
視線を感じたもののファントレイユは相変わらず素知らぬ表情を、作り続けた。
ソルジェニーはファントレイユの横顔を伺ったが、ファントレイユはとりすました表情を崩さず、素っ気なくつぶやき返した。
「君の心配なんて無駄な事をして、何になる?」
ギデオンが、そうだろうと笑った。
が、ソルジェニーは、ファントレイユが真剣な表情であの道から、いつギデオンが姿を見せるかと、じりじり居てもたっても居られない様子で伺うのを、思い返していた。
だって、でも、・・・それは、心配していた。
だが、ファントレイユが彼にそれを言わない理由も、なんとなく解った。
・・・心配する必要が確かに、ギデオンには無かったからだった。
食事を終えると、ソルジェニーはいかにも、くつろいだ様子を、見せた。
ギデオンはそんな王子の様子に微笑むと、やはりとても優しい声色で訊ねた。
「・・・怖く、無かったか?」
ソルジェニーは途端に弾けるように笑うと
「・・・だって、ギデオンとファントレイユと一緒なのに?
こんな事を言うと、一生懸命護ってくれたファントレイユに怒られそうだけど・・・」
ソルジェニーがそっと彼を伺うので、ファントレイユは微笑んだ。
「・・・怒らないから、どうぞ言ってご覧なさい」
「本当は、もの凄くわくわくした・・・」
二人は途端に、ソルジェニーを凝視した。
が、ファントレイユが気を取り直してナプキンで口元を拭うと、つぶやいた。
「・・・血筋ですかね・・・。
ギデオンもそれは、楽しそうだった」
ギデオンの、明らかに困惑した様子が、伺えたが彼はつぶやいた。
「まあ・・・。気晴らしには、成ったな。
軍の部下は、やはり思い切り、殴れない・・・」
ファントレイユの目が、このセリフにいきなりまん丸に成り、ナプキンを扱う手が、止まった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれで・・・・・・?
じゃあさっきは一体、何人殴って来たんだ?」
ギデオンは不平を言うように、唸った。
「・・・数なんて、覚えているか・・・!
次々に沸いて出て、それはわくわくしたが」
ソルジェニーが、やはり驚いた顔で、訊ねた。
「次々に出て来て、拳だけで戦ったの?」
「・・・最後は、剣を抜いて来たな・・・!
でかい図体して、情けないったら・・・!
あれだけの体格だ。さぞ、殴り甲斐があったのに、剣を抜くなんて、卑劣だと思わないか?」
ギデオンの、その真剣に怒る見慣れた様子に、ファントレイユは一つ、頷くと、ギデオンの言いたい事を察して代弁した。
「・・・つまり、剣だとものの数秒で、殺してしまえて、さぞかしつまらなかったんだろう・・・?」
ギデオンは、頷くと、落胆をその言葉に滲ませて、つぶやいた。
「・・・そんなに、死にたかったのかな・・・」
ソルジェニーは目を、まん丸に、した。
彼はギデオンをそれは見慣れて意識していなかったけれど、これ程容姿に恵まれているファントレイユに『彼に比べたら、私の容姿等どれ程のものです?』
と言わしめただけあって、正直ファントレイユに視線を送る、どのご婦人方よりも、目立って綺麗だと、思った。
金の髪に囲まれた色白の整った小顔に、宝石の様な青緑の瞳が、誰よりも一際、人目を引いている。
ファントレイユと居ると、彼のそんな様子が時々、輝きを放って綺麗に見えたりするけれど、ギデオンが口を開く度、彼がどれ程その容姿に反して勇猛かも、伺えた。
つづく。