そして足を組むと尚も、周囲を見回す。
「・・・あっちの女性は結構、美人だぞ・・・?
さっきから食事も取らずに君に視線が、釘付けだ」
濃い赤毛を結い上げた、口元にほくろのある美人が、しなを作って仕切りにファントレイユの関心を、引こうと努力する様に目を止めて訊ねる。
が、ファントレイユはチラリと相手に気づかれない様視線をくべて確認すると、素っ気なく言った。
「・・・残念だが、私を寝取って自分の株を、上げたいだけだ。
連れ歩いて自慢の種に、したいんだろうな。
・・・そういうのが、君のタイプなのか?」
ギデオンは途端に気を、悪くし、すまして食事するファントレイユの美貌を睨んだ。
たが、更に別のテーブルにその豪奢な金髪を振り、綺麗な面を向けてつぶやいた。
「・・・じゃあ、あっちはどうだ?
それは豊満な、胸をしている。色白で小柄で顔も、可愛い。
それはうっとりと、君を見つめている様子だが」
ファントレイユはチラリと見ると
「・・・駄目だ・・・。情が深すぎる。
彼女と付き合ったりしたらもう、他と付き合えない」
ギデオンは途端に、憤慨した。
「贅沢な奴だな・・・!」
ファントレイユは肩をすくめると、すました表情を向けてつぶやいた。
「君も、人の世話を焼いてないで、とっとと食べたらどうだ?
・・・それとも、誰か私に、紹介して欲しいご婦人が、居るのか?」
ソルジェニーが途端に、くすくすくすと、笑った。
王子に笑われて、ギデオンは仕方無くナイフとフォークを手に取った。
「・・・君にぞっこんの女性を、誰が紹介してくれだなんて頼むんだ!」
彼は、慣れた手つきで肉を切り分けると、フォークで、それは優雅な仕草で、それを口へと運ぶ。
ファントレイユはその、とても育ち良さげな、それは品良く食事する綺麗な容姿のギデオンを見つめて、つい本音を覗かせてつぶやいた。
「・・・・・・・・・そうしていると、本当に、上品なのにな・・・・・・・・・」
ギデオンは切った肉を口へと運び、眉根を寄せて睨みながら、ファントレイユに尋ねた。
「で、その後何て続くんだ?」
ギデオンの疑問に、ファントレイユは慌てて本音を後ろに、押しやると言った。
「いや・・・?
君位身分が最高に高くて、腕っぷしも申し分無くて、容姿にも恵まれているというのに、どうして女性と遊ぶ気にならないのか、とても不思議だ・・・」
「私は逆だ。これだけ選びたい放題でどうして、全うに一人に絞れないのか、解らない・・・!」
ファントレイユは肩を、思い切りすくめた。
「どうして一人に絞れるのか、解らない」
それを聞いたギデオンはもう、この男とは話せないと言うように、軽くファントレイユを、睨んだ。
ソルジェニーがもうずっと、二人の会話に、くすくすと笑い続けていた。
が、ギデオンはムキになってソルジェニーに告げた。
「・・・ソルジェニー。彼の事を随分気に入ってる様子だが、この趣味だけは、マネしないようにしなさい・・・!
とせう考えても不道徳だし、うんと評判を落とすから・・・!」
ソルジェニーはつい、聞いた。
「・・・軍の中でも、ファントレイユはそう、思われているの?」
ギデオンは肩を、すくめた。
「男ばかりだからな・・・。羨ましがられてると思うが」
「・・・そう・・・なんだ」
「だが一般の場所では、彼はヘタをすれば、鼻摘み者だ」
ファントレイユはギデオンの言葉に、まるで同調するように頷くと、言った。
「そう・・・。大抵、自分を振り向かずに私に女性が振り向くと、他の男は嫉妬するものだ。
・・・その男の、身分が高ければ高い程」
ギデオンは、てっきりファントレイユが自分の事を指して皮肉っている思い込んで、目を剥いた。
「・・・私は別に、君に嫉妬していないぞ・・・!」
ファントレイユが首をすくめ、情けなげな表情を作って、すかさずつぶやいた。
「君の事だなんて誰も、言ってやしない・・・。
大体、君は嫉妬される側だろう?」
この、自分の怒りを見事にかわす返答に、ギデオンは思わず素で問い返した。
「・・・・・・・・・どうして?」
ファントレイユはギデオンこそ自分の言った事を、まるで心に留めていやしない様子にがっかりして、つぶやいた。
「さっき、言ったじゃないか・・・・・・。
何もかも、恵まれてるって・・・・・・」
ギデオンは、そんなファントレイユの表情に、ああそうか。
と軽く頷いた。
が、ファントレイユは思い返してつぶやく。
「・・・ああ、だからこれ以上の嫉妬を買わない為に、わざと女性と遊ぶのを、控えているのか?」
ファントレイユはほぼ本音で訊ねたが、ギデオンはその言い様に、思わず怒鳴った。
「・・・そんな思惑は、無い・・・!」
「・・・そう言えば、君も君の取り巻き達も、どちらかと言えばあまり女性に対しての、武勇伝は聞かないな・・・」
ファントレイユの方は素朴な疑問を口にしただけだったが、口先で、弄ぶかのようなファントレイユのその言動に、ギデオンは降参するように下を向いた。
「・・・・・・・・・ファントレイユ。
頼むから自分を基準に、しないでくれ。
大抵の男は君程女性とは、遊ばないものだ」
ソルジェニーはまた、大いにくすくす笑った。
つづく。