アースルーリンドの騎士追加特記その32 | 「アースルーリンドの騎士」

「アースルーリンドの騎士」

オリジナル  で ファンタジー の BL系小説。
そしてオリジナルのイラストブログ。
ストーリーは完全オリジナルのキャラ突っ走り型冒険ファンタジーです。
時折下ネタ、BLネタ入るので、年少の方はお控え願います。

ソルジェニーは彼の登場に心が騒いだが、確かに、自分の護衛を務めている間、目立ちまくっているファントレイユを思い浮かべ、ギデオンの、言ったとおりかもしれないと、また心配げにファントレイユを覗き込んだ。
が、ファントレイユはギデオンのその姿に笑いかけた。
「・・・ご心配、ありがとう!
だが彼女は暫くして自分に言い寄る男が出てきたら、すぐに私の事なんか、忘れるさ!」
ギデオンは、だがじっとソファにかけてそう微笑みかけるファントレイユを見つめると、ぶっきら棒につぶやいた。
「・・・君くらいの美貌の男が、女性に簡単に、忘れ去られるとは到底、思えないが」
ファントレイユが彼のその言葉に、あんまりまじまじとギデオンの顔を見つめるので、ギデオンは途端に、罰が悪そうな顔をして問い正した。
「・・・私はそんなに、間抜けな事を言っているのか?」
「いや・・・?
君にそんな風に、思われてるなんて、知らなくて意外だった」
ファントレイユの返答に、ギデオンはほっとしたように肩を、すくめた。
「どうして私だと意外なんだ・・・!
第一これは、ヤンフェスやマントレンの意見だぞ?
私も彼らに、同感だと思っただけだ」
ヤンフェスとマントレンの名を聞いて途端、ファントレイユが気遣わしげにギデオンを、見つめて聞いた。
「・・・彼らと、話したのか?」
ギデオンは二人の斜め横のソファに腰掛けながら、ファントレイユの、自分の顔色を伺う様子に気づいたが、とぼけた。
「随分な騒ぎだったからな・・・。
いくら近衛の兵舎だって、抜刀したまま昼日中俳諧する奴は、珍しい」
腰を降ろし様、手を胸の、前で組む。
「・・・そうか・・・・・・・・・それでその・・・・・・」
ファントレイユはギデオンがどこに話を持っていくのか、見当がついてそっと彼を伺い見る。
ギデオンは意地悪く笑うと
「・・・君の、お手柄だ。
さすがに日頃流血は嫌いだと言い張るだけあって、スターグの理不尽な斬り合いを押し止めた事は、誉めてやる」
ソルジェニーはギデオンの言を真に受けて、顔を輝かせてファントレイユを見たが、ファントレイユはギデオンの、滅多に口にしない『誉めてやる』という言葉に更に警戒を強め、彼が影で“猛獣”と呼ぶその男の言わんとする事柄の落ち着き先を、慎重に見守った。
ソルジェニーがファントレイユの身構えた様子につい、もう一度ギデオンの顔を、その理由を探るように振り返る。
ギデオンはファントレイユが、もう自分が何を言い出すのか、察しがついていると踏んで、彼に向かって、笑った。
ソルジェニーが、見た事の無いギデオンの笑顔だったが、ファントレイユは良く、知っているようだった。
背筋が、凍り付くような笑顔だ。
「・・・つまり・・・二人はしゃべったんだな?
酒場にその・・・・・・・・・」
ギデオンはファントレイユの言葉を、遮って言った。
「少女を伴って来たそうだな。
知り合いの、親戚だそうだが、その知り合いとは、私の事だろう?」
ファントレイユは、彼らがギデオンの猛獣振りを熟知していて、裏切るとはどうしても思えなくて、もう一度聞き返した。
「・・・それも、マントレンとヤンフェスか?」
「いや?別口だ」
ファントレイユはやっぱり・・・とは思ったが、酒場で少女を王子だと気づかない間抜けが、迂闊にギデオンの前で口を、滑らせたのだと解り、心の中で舌打った。
ソルジェニーも、彼を少女と間違えた、酔っぱらいの隊員を、思い返していた。
そして安酒場に、よりによって厳重警護が必要な、それは国にとっての重要な身の上の王子を、お忍びで連れて行った事が彼にバレて罰の悪そうなファントレイユの、下を向いて眉を寄せる様子を目にし、ソルジェニーは慌てて彼を庇うように言った。
「ギデオン。私が頼んだ。ファントレイユに。
もっと、素朴な物が食べたいって」
そう、可愛いソルジェニーに必死に言われ、ギデオンはふ、と冷め切った夕食の乗ったテーブルに、視線を向けた。
途端、ギデオンの顔が心配げに曇る。
「・・・食べて、無いのか?」
王子を見つめ、密やかな声音でそう言い、ファントレイユに視線を移す。
ファントレイユは彼の気遣わしげな青緑の瞳に、そっと肩を、すくめて見せた。
ギデオンは途端ファントレイユに、神妙な表情を伺わせて静かに侘びた。
「・・・すまない。君はソルジェニーに、気を使ったんだな?」
ファントレイユはその猛獣が、この小さないとこに弱い事を知ってはいたが、こうもあっさりと兜を脱ぐ様に、つい顔を、上げた。
その、彼の気遣いに侘びの表情を素直に浮かべた、身分の高い尊大な男のその愛情の深さを思んばかると、ファントレイユはそっと俯いて、ささやいた。
「・・・いや・・・。
私も彼の約束に、うんと遅れたので、償いがしたかっただけだ」
ギデオンはファントレイユが、彼を非難する事無く自分の非を理由に上げ、詫びを入れる彼の誇りを気遣う様子に少し、感謝するように頷くと、一つ、タメ息を付く。
「・・・それで今夜も、食欲が、無いのか?」
ソルジェニーは答えずに俯き、ファントレイユが代わりにつぶやいた。
「・・・その様だな・・・・・・・・・」
ギデオンはまた一つ、ため息を付くと
「だが、安酒場は頂けない。
もう少し上品な酔っぱらいの居る店を、知っている。
馬鹿高いが、田舎料理も置いてある筈だ。
護衛の他に、私も同席すれば、文句も出まい」
ソルジェニーはそれを聞いて一気にはしゃいで顔を輝かせると、出かける支度を、しに部屋を飛び出して行った。
ファントレイユが顔を上げ、ギデオンをまじまじと、見た。
「・・・君、本当に王子には、甘いんだな」
ギデオンはファントレイユに見つめられ、更にもう一つ、大きなため息を付いた。
「甘くも、なるさ・・・・・・・・・。
君も様子を見ていたら、解るだろう?」
ファントレイユも思わず、頷いた。
ギデオンは、そんなファントレイユの、少し青冷めてやつれた、珍しくしおらしい姿を目にし、椅子から身を乗り出し、彼を伺うように見つめて訊ねた。
「それで?
今日も別件でゴタついて、君は疲れていると言うなら、私が引き受けるが」
が、ファントレイユは顔を上げて途端に明るく、笑った。
「・・・君の奢りで夕食にありつける、滅多に無い機会から私を、閉め出す気か?」
ギデオンがその笑顔に、釣られて笑った。

つづく。