午前中に会社で雑務をこなし、午後から現場に行く。
「勝川の家」の現場に近づくと、向こうから見覚えのある車が来た。
「ん?ひょっとしてYK様?」
すれ違う時車内をみたら、ご主人様であった。
「どもーーー。」
・・・と、頭をさげてすれ違う。車を現場に止めて後方をみると、
YK様の車が、Uターンしてこちらにもどっていらっしゃった。
車から降りてあいさつ。
奥様とお子さんもご一緒でした。
「クロス、早めに決めていただいて有難うございます。
ほとんど一緒に、クロスを選び始めてもらったSKさん・・・やっぱ、
まだ決まらず、金曜日まで時間くださいって言われましたわ、ははは。
YKさんからクロス工事始めますので。」
「そうですか、ははは。」
・・・と、おとなりのSK様ご夫婦の性格を、今やすっかりご存知のYK様は
笑っていらっしゃった。
外構の打ち合わせを少しした後、
「YKさんの大工工事、今日明日でおわります。
K棟梁もあさってには他の現場にいきます。」
と、言うと、
「え!そうなんですか・・・・。もう、いなくなっちゃうんですか?」
「はい。YKさんの家の2Fを主に作ってくれたII大工さんなんか、
今、東海市の現場ですよ。」
「そうなんですか?!あ、あの・・・・おじちゃん・・・。」
「大工さんは皆、この後のクロス工事の前に、自分の仕事を終えて、
静かに現場を去っていくんです・・・ですから、ほとんど完成した建物を
見ることはないんです。」
なんだか、そんな話をしていると、奥様もご主人様も急に寂しそうな顔・・・。
「私、ほとんど毎日来てたから・・・・。」
と、奥様。
ご主人様も明日以降仕事らしく、昼間、現場でK棟梁に会えるのは今日限り。
「ちょっと、なんか渡さないと・・・。」
「そ、そうだなあ・・・。そんなに早くいなくなっちゃうなんて・・・・。」
と、ご夫婦でなにやら話し始めた、YK様であった。
「あの・・・K棟梁、何が好きですか?」と、YK様。
「ま、お酒でしょうね。ビール・・・かなあ。」と、私が言うと、妻が横から、
「焼酎が好きっていってなかったっけ?」と言った。
そこで、
「さりげなく聞いてきますわ。」
と、私は、仕事中のK棟梁に話しかけ、
「麦焼酎が好き。」と言うことを聞き出し、YK様に伝えました。
「ちょ、ちょっと、行ってきます!」
と、ご主人様と奥様は、足早にどこかにでかけてしもた・・・・。
・・・・YK様がどこかに行ってしまった後、私達は現場を後にしました。
YK様邸は、内部の造作にひじょうにこだわりのある住宅で、
一部屋、一部屋が大工泣かせの家でした。
熱心に現場に通った奥様と、仕事の合間に時間の許す限り、これまた、
現場に通ったご主人様が、K棟梁とII大工さんと共同作業でつくった
「超大作」であります。
おそらく、この後、K棟梁やII大工さんにとっても、忘れることのできない、
記憶に残る住宅になったに違いない・・・・(ホント、大変だったらしい)。
K棟梁も、YK様ご夫婦がいい人なんで、面倒な仕事でも、
頑張ってくれたんだと思いますよ。
実は、前にこんなことがありました。
F様というお客様がいらっしゃって、F様邸の工事中に、
もともと職人さんであるご主人様のF様と、K棟梁が、余った木材で、
小鳥の巣箱を一緒に現場でつくったことがあったのです。
F様邸が完成して、数年後、玄関収納の不具合を直すためK棟梁が、
久しぶりにF様邸に伺いました。
玄関収納の調整をしようと扉を開くと、
昔、F様と一緒につくった小鳥の巣箱が、収納の中に保管されて
あったそうで、それを見たK棟梁は、
「もう、捨てられたと思ってましたから・・・。今でもFさんが、大事に
持っていてくれたと思うと、本当に嬉しかったです。」
・・・・と、後に私達に話してくれました。
当時の思い出を大事にしてくれていたF様の気持ちが、K棟梁には
本当に嬉しかったんだと思います。
YK様も、こちらの家をつくってくれた職人さん達のことは、
どうか一生忘れないでいてあげてくださいね。