『小枝子、そう心配するなよ』

『きっとなんとかなる筈だからさ..    .たぶん...』
由太は小枝子を慰めていた。




昼間はOLとして勤め、夜は隣町のスナックで働いていた小枝子であった。

小枝子は子供の頃から親しかった由太に、なんでも相談を持ち掛けていたが、日頃忙しい由太は、それほど真剣には小枝子と向き合ってはいなかった。



小西小枝子23歳、彼女は宇浜の市会議員の父と、地元の中学校の英語教師を母に持ち、なに不自由のない家庭に生まれ育っていた。

そして子供の頃から成績も良く、常に学級委員を行うなど、とても闊達な子供時代を送ってきた。


高校を卒業してまもなく、地元の国立大学進学を勧める両親の大反対を押切って、5年前にこの都内のアパートにひとり住まいをしていた。



『由太さぁ~、なぜ人たちは誰も必死に生きてんだろう?』

小枝子は由太に問いかけた。



『ん?そりゃさ、食べてゆくためじゃないの...』

由太らしい返事を小枝子に返した。


勿論、由太に質問してもまともな答えが返ってくることは期待もしていない小枝子であったが、他に聞くあても居ない彼女は『ふぅ~ん』と返事を流した。



『なんだか、このままではよくない気がするんだよねぇ』小枝子は呟いたが、由太には聞こえていなかった。



『じゃぁな、またなにかあったらメールでもくれよ...』そういうと、由太は小枝子のアパートから出て行った。