…2007年

10月20日。


一人の冴えない男が

広島の空の下から

ひっそりと

孤独な文章を

インターネットの片隅に

書き綴り始めた。




彼はその月の初めに

最愛の母親を

食道癌で亡くし

笑顔になることは勿論

表情を作ることすら

忘れかけていた…。



それから約三ヶ月後の


…2008年

1月25日。

一人の女性が

福岡の空の下から

ひっそりと

孤独な文章を

インターネットの片隅に

書き綴り始める。



彼女もまた自分の

未来、現在、そして過去に

本当の居場所を見出せず

さらに自らを縛り付けている

殻をぶち破ろうと

必死になって

もがき苦しんでいた。



彼等は年齢が一回りも違い

暮らしている街すら

福岡~広島と

遠く離れていた。



普通に考えたら

一生、すれ違う筈のない二人。

もし仮に同じ街に

暮らしていたとしても

巡り逢う確率など

皆無に近いそんな二人が

携帯電話の

小さな画面の中の

互いの文章に惹かれ合い

顔も声も知らないまま

心のかたちを見せ合いながら

ただひたすら『言葉』だけを

信じようとしていた。

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…『Weblog』


そんなまどろっこしい枠を超えて

いつしか彼等は

互いの携帯電話同士で

言葉を交わすようになり

彼女がメールに綴る

愛犬の話や季節の花の香りの中に

彼は漠然と

彼女の後ろ姿の輪郭を

見つめ始めていた。

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ある日曜の昼下がり

春の匂いのする彼の部屋に

彼女から一通のメールが届く。



そこには

『今度、宮島を訪れてみたい』

その際に時間があれば

少しだけ逢って

お茶でもしながらお話をしませんか?と

綴られていた。






…彼女と逢う。


それまでバーチャルの世界に

存在していた彼女が

現実に目の前に現れる。


なんだか、とても不思議な気がした。






…そして。


2008年


5月24日。


その日は


朝から雨が降っていた。


…そして。


運命の糸に


手繰り寄せられるように


二人は出逢う。


まるで


お互い産まれた時から


…いや、産まれる前から


この日が


約束されていたかのように。