(傷だらけの山河)・銀幕の男優 ⑤ よろめきドラマに不可欠だった男優 山村聰さん・山本薩夫監督 | 吐夢の映画日記と日々の雑感

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銀幕の男優 ⑤ よろめきドラマに不可欠だった男優 山村聰さん  

 

作品 ≪傷だらけの山河≫

 

 

こんばんは、いつもご訪問いただきましてありがとうございます。

 

一人の御妾さんをつくるということはよくある話だが、

 

5人も6人も作り、そのうえ又一人事業成金の生贄に

 

なろうとしている女がいる。

 

           ≪傷だらけの山河≫


製作  大映 
監督  山本薩夫
脚色  新藤兼人
原作  石川達三

出演  山村 聡
        若尾文子
        東野英治郎
        丹阿弥谷津子
    坪内美詠子
        船越英二
        伊藤孝雄
        村瀬幸子


これはある百貨店だの、不動産だのを運営している

 

某企業をモデルとした、

 

高度経済期に非情な手段を用いて

 

のし上がった事業の鬼に、焦点を当て、

 

彼をめぐるスキャンダルや、彼に反発する御妾の息子の抗戦劇と、

 

企業戦争というものが激しくなりだした頃の物語。

 

ちょっと前までは、もっと複雑になった企業戦争であったが

 

それより前の企業戦争の原点 

 

と言う目で見ると非情に興味深い。

 

石川達三原作で当時話題になった。○武電鉄がモデル?

 

彼の作品では贈収賄を描いた”金環蝕”という作品も話題になり

 

非常に面白かったが

 

この作品も結構楽しめました。

 

こういうリアルな話は役者の配置がとても興味を引くが、

 

各映画会社の役者というものが専属となっているから、ちょっと

 

難がある。

 

が当時の作品というのは、

 

劇団に優れた役者が大勢いて

 

やはり納得の行く配役がなされている。

 

この映画では精力的に仕事を広げる鬼の事業主に山村 聡を配し、

 

ライバル会社の事業主に東野英治郎を据える、 適役である。


私営鉄道を敷いて儲ける為、まず

 

農地の売買をめぐってのあのてこの手の戦略。

 

今では私達民衆者情報網の発達で、一部始終を新聞、テレビで

 

簡単に掴めるようになったが、この頃はリアルタイムでそういう

 

問題を知ることは少なかった。

 

だからこの小説が話題を呼んだ。そういう時代であった。

 

この企業戦争の原点を知るものとして解かり易く

 

ドラマテイックに撮られたこの映画は楽しめる。

 

さて、山村 聰さん、私の場合山村さんの作品って

 

リアルタイム上映の時には意識したことはなく後になって

 

ああこの作品に出てらしたんだという感覚でした。

 

むしろテレビに移られてから、(11人の孫たち)でしたか、

 

高視聴率の番組がありましてまずそこから知ったような次第です。

 

けれど銀幕の世界では昭和30年代の頃はやはり活躍されていたようです。

 

銀幕の男優さん、たくさんいらっしゃいますがなるべく古くから活躍されている方

 

から、選んでいきたいと思います。

 

1946年くらいのデビューですが

 

女優須磨子の恋 で島村抱月の役で銀幕に躍り出て

 

小津監督の(宗方姉妹)でブルーリボン賞受賞、(東京物語)では

 

笠さんの長男の役で出ていましたね。

 

また、これは記憶しているのですが、プロレタリア文学の代表作品の

 

小林多喜二原作(蟹工船)を脚本、監督、主演されて当時(1953年)

 

話題になったとずっと後になって知ったこと。

 

(自由学校)、(めし)、(にごりえ)、(早春)、(四十八歳の抵抗)

 

耽美派の文豪谷崎潤一郎原作の(瘋癲老人日記)などなど観づらい作品も多い。

 

華やかさはなけれどもやはりこの頃の話題作に

 

なくてはならない方だったようです。

 

(四十八歳の抵抗)などもよろめきドラマとして当時世間を賑わしましたねえ。

 

作品群が相当の数になります。

 

本作品では若尾文子さんを相手に狐と狸の化かしあいならぬ演技合戦を

 

繰り広げています。

 

    ストーリー       

 

御妾2号の息子と、お妾3号の息子が自分たちの思想論を語り合う。

 

頭脳は二人とも良さそうだ。

 

昔はこういう熱血漢が大勢いましたね。

 

何号目だかに狙われたのが、女性社員の若尾文子。

 

彼女には貧乏絵描きの若い恋人がいるがそろそろ貧乏生活に嫌気が。

 

この鬼(山村聰)は、若い男がパリに行きたがっているのを知り、

 

というより彼女を調べ上げて、パリ行きの交換条件を

 

餌とし、彼女を何番目だかの

 

御妾にしてしまう。が、彼女も貧乏が嫌で すんなりと

 

O.K.

 

 

そして、三番めの妾の息子は父の遺産が欲しい。

 

二人の息子は母の心を踏みにじったと思っているので

 

なにか仕返しを目論んでいるのだ。

 

本妻の息子は父の愛人と知らず、若尾さんを愛してしまい

 

親子で渡り合う。

 

人というものを軽んじ、甘く見ていればいつか足元に火がつくと

 

思うけどな。

 

2と3号の息子は認知を求めているが二人の動機は全然違うのだ。

 

母たちはおろおろするばかり。

 

この母達は今は見なくなった本当に忍耐と優しさの溢れる女性。

 

 

この男には勿体無い。

 

世の中を知らず、この男を通してしか世の中を

 

見ることが出来ない。

 

本妻の息子の自殺未遂。

 

父の生きかたを見ていて精神を病んでいく・

 

一家庭を守るのに身を削る殿方が多いのに

 

何軒もの家庭を抱え何とまー大変なことだこと!

 

一人は母と一緒に認知訴訟を起こし、

 

息子はライバル会社に入社と、 佳境に入る。

 

さてさてこの結末は?

 

ビル建設、宅地造成、大学建設と

 

日本人が精力的に働いた時代を重ねれば今の時代・・・・

 

懐かしくあの上向きの時代に帰りたいものだと感ぜずには

 

いられない。

 

事業はどんどん拡大し、家庭や妾宅の心配どころではなくなり、

 

女たちとも縁を切る、

 

若尾さんはとっくに自分の生きかたの間違いに気がつき

 

行方を晦ました。

 

金でなびく若い女が幾らでもいるからだ。

 

しかし本妻の息子はとうとう心身喪失で病院へ入り本妻も

 

家を出るだろう。

 

その彼を見舞う若尾の姿があった。

 

この映画は男の出世物語ではない。

 

この時代何人もいた事業の鬼達。

 

この人たちが豊かな日本を築いたのも事実なら、

 

歪んだ日本にしたのも彼らかもしれない。

 

ついて行けない若者たちが多分このころから蓄積され、

 

その子達がまた精神を病み、

 

病む子等の多い日本を形成するようになったのも事実だ。

 

しかし大きな流れは誰も止めることは出来ない。

 

良き事も悪しきことも全部ひっくるめて社会であり、

 

順応できないものは取り残される。

 

がその順応できない人々を救う人たちもいるってこと。

 

この映画を観て、表面の日本はこういう人たちが作ったんだ。

 

でもプロジェクトXに見られるような人たちが作った

 

素晴らしい裏側の日本も忘れてはならない。

 

山村総さんはこういった人を人とも思わない冷血漢をさらりと

 

当たり前のように演ずるのが実にうまい方だった・

 

1910年生まれ、2000年没

 

東大出身のスターの第一号かも知れません。