《北北西に進路 を取れ》 ・ヒッチコック作品・ 1959年度 | 吐夢の映画日記と日々の雑感

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エヴァ・マリー・セイントの 《北北西に進路を取れ》



こんばんは。



1920年代、1930年代生まれの女優さん、

その年代生まれだと活躍の場はもちろん戦後である。



映画産業が本格的になった頃で話題作、名作も

目白押しと言うところであろうが、

戦中から活躍していた監督にとっては彼らの集大成的作品、

或いは絶好調のころと言えよう。



まさにヒッチコックもそうで、≪北北西に進路を取れ≫は

≪三十九夜≫のリメイクとも言われながら、

新たな手法を取り入れながら独自の面白さとなり、

それまでの追っかけサスペンスの最高傑作となった。



何故?今夜ヒッチコック??

つまり、この作品の主演、ケーリー.・グラントのお相手の

エヴァ・マリー・セイントをとりあげるからである。



日本人の映画ファンにはこのような地味な女優さんは

あまり受け入れられないようだが、隠れたファンも多いはず。



それに≪波止場≫と言う代表作がある。

彼女の華やかな部分は≪北北西・・・≫で知られるところであるが、

作品としては≪波止場≫、≪愛情の花咲く樹≫、≪いそしぎ≫といった

地味で堅実な修道女のような役柄のほうが

彼女のキャラクターに近いかもしれない。



それらの作品はすでに

マーロン.ブランドやリズ・テーラーの作品として

すでに吐夢で全て紹介済みです。



ということはこの作品を紹介しなければエヴァを

取り上げられなくなってしまった理由である。



アメリカ生まれでありながら彼女の雰囲気は

憂愁な翳りを漂わせたハリウッドらしからぬ女優である。



灰色に近いブロンド、淡いブルーの瞳、

ほっそりとした頬はどこか

北欧の女優さんらしいものがある。



インテイリ女優らしい、落ち着いた静けさを持つ

雰囲気が彼女を包んでいる。



決して美人ではないが、洗練された雰囲気は

魅力ある女優さんで、大好きです。



1922年、ニュージャージー州生まれ。

オハイオ州立大学卒業とある。



学生時代にアルバイトで通っていたテレビ局で

そのまま、テレビに進出。

そのときに知り合ったディレクターと結婚。



1953年にかのリリアン・ギッシュと共演、デビューが
きっかけで映画女優としてスタート。



そして、1954年にエリア・カザンに見出され、

≪波止場≫での大役を掴んだのである。



これでアカデミー助演女優所賞を獲得した。

人気スターの座へつくのは間もないことだった。

しかし、彼女はスターの人気というものに

執着はしなかったようである。



毎年、作品を極めて慎重に厳選し、

納得のいく作品にのみ出演していったそうだ。





≪北北西に進路を取れ≫のストーリーや解説は、

あまりにファンの多いヒッチコック作品の一本であるだけに

紹介するまでもありません。



そこで、今日はストーリーというよりも

この作品の構成に少し、スポットをあてて、



わたしの勝手な切り口で進めてまいります。





この作品の主人公と言うのは実在しないX氏・・・・

つまりカブランという人物。



広告会社の社長かなんだかをしているロジャーが

ひょんなことから

敵のスパイ一味からカブランと思い込まれ

必死に追っかけられるのである。



間違われたロジャーは何がなんだかわからないうちに、

殺人者の容疑まで着せられ、自ら解明しようとスパイと

立ち向かうわけだ。



一味が躍起になっても実在しない人物は捕まえられない。

情報部の作った架空の人物、カブラン。



間違えられたロジャーを彼らは一度は見捨てたように思えた。



そこに登場する、謎の女イヴが彼、ロジャーを助ける風に

近寄ってくるが、スパイの親玉の情婦と言う設定。



しかし、彼女は本当は情報部の手先なのであるが

この女性の登場によって、ロjジャーは

敵から逃れる為の逃亡がさらに始まる。



ばかばかしく、戦慄に満ちた、信じ難い冒険の連続の後、

敵の正体が明らかになって、初めてイヴが

本当は情報部の手先だったという構成である。



滑り出しは、ロジャーが劇中で言っているように

”何のことかさっぱりわからん!”・・・・である。



起承転結の"起”の部分・・

本物のタウンゼント氏が国連のなかで

ナイフで殺される。



そして防諜機関の部屋の場面と変る。



ここでそれまでの経緯の説明が観客になされるわけで、

初めてそのときに

何が始まろうとしているかがわかる仕掛けである。



ここで話されることは、経過の説明であると同時に

第二のもうひとつの謎・・・つまり

警察が何故、その後、ロジャーを逮捕もせず、助けもせず・・・、

といった説明にも繋がるキーポイントだと思うのですね。





”承”の部分は

開き直ったロジャーがシカゴ行きの列車に

乗り込むところからである。



そして彼女の甘い誘惑に呑みこまれたロジャーは

彼女の手はずにまんまと引っかかり、



有名な10分間のトウモロコシ畑の飛行機での追跡シーンへと

導かれますね。



彼女が敵の手先だと踏んだロジャーがここから

逆に彼女を利用して敵に近づいていくところから

”転”の部分に入って行きますね。



そして空港でのシ-ンで、

レオ・G・キャロル(防諜機関のボス)が、話すシーンで

ロジャーの身に起こった出来事が全て語られる・



しかし、ここで話される事実は

われわれ観客はすでに知っていることだ。



そして、キャロルの第二の説明は

エンジンのかかったプロペラの音でかき消される。

それはもう

音声で我々に説明する必要はなかったのだとおもうのですね。



こういうディティールへのヒッチコックの配慮を

見つける楽しさがありますし、上手いですねえ・。



そして”結”は言わずもがなもうひとつのクライマックス・・

ラシュモア山のシーンですね。



ここで、イヴがロジャーに向けて発砲する。

これは空砲でスパイたちの目を欺いて

ロジャーの命を助ける為のイヴの索だったと

分るわけだが、

その後、森で二台の車が合流するシーンがある。



ここで、ロジャーはイヴがスパイのボスの情婦だと分った後で

初めて会うシーンである.。



そして、イヴが敵にもぐりこんでいた事実も

明らかになるわけ。



ストーリーの展開の質を落とさずに、どこで観客に分らせるか??の上手さですね。



  新しい試みはあのトウモロコシ畑のシーンでしょう。



スパイたちがロジャーを狙うとすれば

暗闇の目立たないところで殺すのがそれまでの一般的な

サスペンスの一シーンであった。



それが真昼間の広野の、隠れ場所もないところで

追っかけをやる大胆さがこの映画の成功且つ見所でしょう。



さて、エヴァー・マリー・セイントの紹介の今夜ですが、

ヒッチコック作品ということで、作品に身が入りすぎましたが、



彼女の魅力は聡明で控えめな役どころを演じた時に

その本領が発揮されます。



≪愛情の花咲く樹≫でも

精神に異常をきたしたエリザベス・テーラーに

婚約者を奪われながらも

ずっと恋人を愛しつづけ、その妻さえも

含めて恋人を見守りつづけると言った

形こそ違え、

風と共に去りぬのメラニーを思い起こすものがあったし、



≪波止場≫でもマーロン・ブランド扮するやくざモノの

チンピラが社会正義に目覚める陰の力となって

健気な

大人になりかけた少女を

演じて素晴らしかった。



彼女は助演と言う立場にいながらいつも

主演女優と同じインパクトを

我々に与える稀有な女優さんでしょう・

アメリカのアメリカらしからぬ女優さんと言うことで

勝手に選ばせて頂きました。



≪波止場≫、≪愛情の花咲く樹≫は

是非ご覧になってくださいませ.