春と修羅 序3 | Ted Conder Japan report

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けれどもこれら新生代沖積世の

巨大に明るい時間の集積のなかで

正しくうつされた筈のこれらのことばが

わずかその一点にも均しい明暗のうちに

(あるいは修羅の十億年)

すでにはやくも印刷者も

それを変わらないとして感ずることは

傾向としてはあり得ます

けだしわれわれがわれわれの感官や

風景や人物をかんずるように

そしてただ共通に感ずるだけであるように

記録や歴史 あるいは地史というものも

それのいろいろの論料といっしょに

(因果の時空的制約のもとに)

われわれがかんじているのに過ぎません

おそらくこれから二千年もたったころは

それ相当のちがった地質学が流用され

相当した証拠もまた次々過去から現出し

みんなは二千年ぐらい前には

青ぞらいっぱいの無色な孔雀が居たとおもい

新進の大学士たちは気圏のいちばんの上層

きらびやかな氷窒素のあたりから

すてきな化石を発掘したり

あるいは白亜紀砂岩の層面に

透明な人類の巨大な足跡を発見するかもしれません

 

すべてこれらの命題は

心象や時間それ自身の性質として

第四次延長のなかで主張されます

 

大正十三年一月廿日

 

宮沢賢治