羽田から津和野、萩へ飛ぶのに途中ちょっとした出来事があった。

 

 

その日は天気が良くなかった。  出発が遅れているのだ。 ・・・・・・何だか嫌な予感がする。

今にも泣きだしそうな上空に似た、どんよりした不安がこのA/Pハブ空港周辺にもよぎった。(……この飛行ルートは今日は鬼門かな)

もっとも一旦機内の人になったら途中で泣こうがわめこうが、手足をバタつかせどんなに暴れようが地に足は着かない泣き寝入りで着陸まで運を天に任せるより法はない。いや航空法という法はある。機内禁煙だ。

案の定、羽田で乗る機材A/Cが機内清掃や準備で出発が遅れ、いつまで経っても搭乗手続開始にならない。

 

そういえば70年代ハリウッド映画で「エアポート/空港」シリーズというのがあったが、そこにはいろんなドラマもあり、またいろんな乗客が描かれていた。

そしてその頃はキャビンアテンダント(C/A 客室乗務員)をスチュワーデス(スッチー)と呼んでいたが、TVドラマでも映画でもそれらをメインとして扱ったドラマも多い。たとえば「アテンションプリーズ」なんかもそれかな。(……のろまなカメ、がなんだか印象的)

あと、映画だったかなパイロット指導教官として時任第一の弟、三郎も好演してたので印象に残っている。

 

人間待たされるとついいろんなことが走馬灯のように頭を交差する。

そういった気持ちをHotにスクランブルさせてくれるのがA/C航空機が飛び交うA/Pハブ空港なのだ。テレサテンの空港♪もあった。(懐かしいなぁ)

 

今回は、ま、兎に角欠航ではないようだからと、セキュリティーチェック(安全検査所)でシビアな視線を受けドキッとしながらタッチアンドゴー(QR確認)を抜け、案内掲示板を見ながら多少落ち着きなく内心動揺を隠しつつ目的ゲートに向かう。不安が的中しなければよいが……。一つ狂うと次々に狂ってくる。

ゲートへの途中、光の挿す窓の外には各航空会社のA/C(機体)がガラス枠の上下左右に水族館のように微動点在している。

掃除婦や警備員だか警官だか、仕事をしてるぞとアピールせんばかりに目障りでもある。そういうのは先進国ではさりげなく目立たないようスマートにこなしているけどな。教育の問題かな。

ときおり珈琲の鼻を挿す香りもしてくる。やや気取った華やいだ空気とともに。

 

 

ここで多くの人が働いている。もし、ここが停電になったら大変だろうな、とか余計な心配までして絨毯を踏み続けた。

 

おっとここだ。74番ゲート。うん間違いない。エアポート’74ってあったっけ?

そういえばコンコルドの大型機は早々に消えてしまったな。

・・・・・・あれはアラン・ドロンが出てたな。あらン、どろん。なんてね。(笑)

やはり、恐竜やマンモスなど燃費の悪い大型機よりコンパクトな経済機が生き残るんだな。……などと最寄りの待合席に歩を進める。

 

おっと前の方、カバーのついたのは優先席だな。国際人はマナーを守らなくっちゃな。

周りを見渡すとなんだか顔が引きつったような、これから注射受けに行くようなこわばった顔してるぞみんな。おいおい、よしてくれよ。そんな縁起でもない。あたしゃもう、インフルのワクチンは打ってますよ。

いや、そうじゃない。現地到着が遅れるので接続がどうなるかイラついているのか。

 

おっ、ザワザワしてきた。地上勤C/Aコスチュームの女性がパネルを持って出てきて掲げる。

「大変長らくお待たせいたしました。これより、クラブメンバーの方、妊産婦の方、障がいのある方等の優先搭乗を行います。ご順にご案内させて戴きますのでお並びになってお待ちください」

 

(ここはコチカメの両津勘吉風に)「おっ、やっときたか、随分遅れてるな。おい、ねえちゃん、途中音速マッハで遅れを取り戻してくれよ」

「はいはい」

なんてことは言わんだろうな。口先女になっても。

しかしちゃんとメンテなんかやってるんだろうな。遅れたからってテキトーに間に合わせて、機内食積み忘れてメシが出てこなかったなんて言ったら承知せんぞ!

えっ、何?今はもう機内食なんか出ないって?

あえあー(Air)、前は正月にフライトしたらお屠蘇ふるまってくれて、赤鶴の盃貰って機内で呑んだぞ~。

お客様、それは何世紀の事でございますか?

えっ、あっ、そうさなあれは(姿勢を正して遠くを見るように)、うん、スクールメイト、いやスカイメイトしてたときだ。

・・・・・・。

 

そうしてようやく定刻を過ぎての搭乗開始となり萩行JAN・555便はシートベルト着用と離陸のアナウンスの後まもなく機内ドアが閉ざされ張り詰めた言いようのない緊張感に包まれる。

タラップがはずされ、ジェットタービンが高速回転する音と共に微かな振動が伝わってくる。

機体がスルスルと水平に移動していく。

窓からタラップが遠ざかるのが目視できる。

 

ゆっくり地上を滑るように定位置まで助走していく。乗員の積み忘れがあってももう引き返せない。

前方機の後に従ってランウエイを並足でぐるぐるとトロット、やがて迎える飛翔のときに備えて機を窺う。(韻を踏んで)

やや後方では航空燃料の燃えカスCo2の臭いが機内にまで漂って異臭がする。過敏症の人は大丈夫だろうか。

そうして待ちに待った管制官からの離陸許可が出た。

 

OK! Here We Go!

 

そして緊張の一瞬、テイクオフ(離陸)だ。

最速ダッシュ!機材前方がやや上に持ち上がる、修学旅行の生徒たちの中にはここで「おおー」と歓声をあげる者もいる。遊園地の感覚なのだろう。ふわっと浮く。これは浮遊感?浮揚感?足が地についてない不安感なのか?……よく分からない。

一方コックピットでは気の抜けない緊張の瞬間が続く。ここがパイロットの腕の見せ所。

落雷や鳥がぶつかってきたり槍が降ってきて多少の困難や障害があってもそれらを乗り越えて既定の高度まで上昇しなければ、途中でやめるわけにはいかない。真剣だ。

 

前方、計器ようしっ!Here We Go!

メインエンジン、ハイパワー、フルスロットル。

操縦桿を握る手に力が入る。よぉーし、いくぞっ!グワー!

 

 

ふわーり、揚がったぞ。(・・・・・・凧か)

ふうー、無事飛んだ。・・・・・・やれやれ。

今度は目的地までの最新の気象状況が気になる。

 

 

やがて高度1万mを越えて水平飛行になり、機内もやや寛いだ空気に満たされ飲み物も配られ、さっきまで強張ってた乗客の顔も緩んで雑談も聞こえてくる。

C/Aも気が緩んだか素地に近いくったくない笑顔で応対してくる。

 

……然しそんな悠長な時間は瞬く間に過ぎていく。

 

悪天候なのかしきりに不意の下降、上昇を繰り返す。機長のサービスアトラクションではないようだ。どうやらエアポケットにはまったらしい。

「わあ~」と歓声ではない寒々しいおぞましい嘆声が漏れ聞こえてくる。機内に張り詰めた空気。操縦室は大丈夫か。

下を見れば、アルプス上空付近。

 

 

雪もチラホラ。機は乱気流の上を舞っているのか、このルートは気象条件が悪いようだ。

かといって、時間が押しているこれ以上迂回ルートは採れない。

やむを得ん。あとはクルーと運を天に任せて正面突破するっきゃない。

ガタガタ揺れて予期できぬエレベーター、もしくはアウトオブコントロールのジェットコースター、ダッチロールのように500m一気に上昇下降を繰り返す。

いかん、機内の乗客を落ち着かせなければ・・・・・・パニックに陥ったら・・・・・・

酒呑んでゲエー吐きそう、とかゲロゲロってこんなのか? 

 

ビービー。

乗客が異常を知らせています。

メーデーメーデー・・・・・・。

 

右前方の女性がなんだか慌てふためいて異変を告げている。

「隣の客は・・・・・・

良く柿食う客だ、じゃない、隣の客は、バタンと倒れました」

とその隣の乗客が寄ってきた若いC/Aに告げている。

「えっ、倒れたって?生きてるんですか?」

「さあ、分かりません」

「・・・・・・」

「さっき、上下にひこうきがこう上がったり下がったりした時にこうバターンと……」

その若いC/Aも倒れた乗客をちらっと診て他人事のように「意識が ありません」とベテランC/Aに嬉々とした目や声で言っている。

おい、その目はなんだ?訓練の成果が試せる嬉しい個人的感情の混じった野次馬の目か? 

おい、非常識じゃないのか。キミは親族の葬式でもそんな嬉々とした目や顔なのか、えっ?

それともC/AはこういうTPOでは緊張感を出すのはNGで常に営業スマイルなのか。

 

後からやってきたベテランC/Aは慌てず騒がず澄まして、「只今機内に急病人が出ました。どなたか医療関係者の方がご搭乗でしたらお近くの乗務員までお知らせください」と重ねてアナウンスする。

 

モノローグ「えっ、医療関係って?わたしゃ公認スポーツリーダーの資格は持っていて、AEDの講習も受けてパッドをどこに貼ったらいいかは分かっているし、お経の本も持ってるからその時はお経をあげてもいいが、まず人事を尽くして天命を待つべし」と動揺したのか訳の分からない事を言ってここは後進の救助士育成に道を譲るべく挙手を控えておいた。

 

とウエイティングしてると、私の右やや後方に乗っていた、地味なダウンを着た普通の女性の乗客が、使命感に駆られてか申し訳なさそうに小さく「ハイ」と手を挙げて乗務員に協力を申し出た。

ここからではよく見えなかったが、その女性は看護師らしく、テキパキと所定の検温、脈拍、血圧等を計り、必要な処置をC/Aと相談しながら乗客をパニックに巻き込まないように粛々とコマを進めていった。よくよく見るとその女性、スレンダーな体型で奥ゆかしくそれでいておきゃんな印象がした。

 

クランケの容体は貧血のようであった。偏食で鉄分の不足か術後胃の不調なのか……。

するとこれからはセキュリティーチェックでさりげなく血圧も計られる時代が来るのかなとも思った。或いは高性能探知レーダーやエアポケットにも強い百万馬力の機体が開発される期待も持てる。

 

その後機内では、そのクランケ(急患)に対しさらに到着地でのアフターケアの必要ありでストレッチャーの待機を指示し、衆人環視の中脚光を浴び、やや上気した風にも見えたが何事も無かったかのように彼女の席に戻った。

 

自らの使命に集中する素晴らしい女性だと思った。輝いていたかっこいいなとも思った。こころの中で拍手してた。

 

 

モノローグ「ふう~ここは私の出番がなくて良かったのかそうでなかったのか。乗客やクルーの為にも。・・・・・・ま、かっこいい私の見せ場は次の出番に持ち越そう」

(今でも不時着時、緊急脱出用スライダー補助できるように禁煙を続け体力鍛錬しています)

 

       

 

さて翌日、一流ホテルの朝食バイキングでそのお手柄の女性を見かけたが、お子さんたちとご一緒で楽しそうだったので、公私混同せずプライベートはそっとしてあげようと話しかけないでおいた。

 

しかしあのお子さん達とは、どんな関係だったのだろうかと。

あれは親子の関係?いや園長さんと園児?或いは離別中の元親子?はたまた孫、曾孫?

うーん、それともあれは雲の上の出来事で、ホテルが天空だったから女神か聖母と天使達だったのかも・・・・・・。

 

 

然し、これはよくできた手の込んだ「どっきりカメラだな」 私をどっきりさせて一体どこの局だ?

  あのC/Aと看護師と乗客、グルだったのか・・・・・・」 誰だプロデューサーは?高橋Pか?

 

 

 

 

 

※以上は実話に基ずくフィクションであり、実在の法人と当話とはなんら引責関係がありません。